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「もう! 殴ってやろうかな? 操船に集中しているときに驚かさないで。それに子供たちのてまえ下品な言葉で悪態をつく癖はなんとかしてよね!」
「ごめん……申し訳ない。またまた気づいたことがあってね」
「いったいなに? ……でも難しい話はいまだめよ」
「いや、なんていうこともないよ。以前ぼくが考えたようにこの『温室(グラスハウス)』がほんとうにガラスでおおわれていたらどういうことになるかわかったんだ」
「それはおめでとう。どうなるっていうの」
「もちろん隕石で穴だらけさ。かぎりなく丈夫な透明物質でもないかぎり大気を保持するには重力を利用するしかないんだ。こんな具合に球殻が隙間だらけであることはじつに合理的な設計だってことだよ」
「うんうん、さぞ施工主が聞いたら喜ぶでしょう」
 カシルの言葉にかすかにひやりとしたものを感じてウィリアムは黙り込んだ。そうなのだ。この世界が人工的に作られたものであるならそれを建設した者がどこかにいるはずだ。自分たちが利用するのでなければいったい誰がこんな大がかりな建造物を作り上げるだろう? もっともな動機――快適な住まいを作るため、あるいは宗教的な理由――惑星規模の大聖堂、馬鹿げた見栄――指導者の彫像や戦勝記念碑のような何か、……それが何であれこの世界はなにかの目的をもって建設されたはずなのだ。もしそうなら創造者がその内部に住まっている可能性を考えることは当然だろう。にもかかわらず数カ月にわたるウィリアムたちによる探査はまだそうした知性の存在の証拠を発見できないでいる。科学文明の指標となる規則的な電磁波の放射はいっさいない。『サガ』からのあらゆる波長の電波による呼びかけにも応えはなかった。ただ惑星に向けられたアンテナはその内部でときおり起こる自然放電――雷にともなう意味のない雑音をひろうだけだ。
――いったいどう考えたらいいのだろう? ウィリアムはため息をついて『世界』の謎へつづくかのような雲海の底を覗き込んだ。はるか『下』――中心部より――でなにやら凝縮した渦巻状の筋雲らしきものがちらりと見える。ときおり青白い雷光が遠い雲間を照らしていた。

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