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とつぜん観測窓いちめんが霧でけぶった。みるみる水滴が硬質プラスチックの表面を濡らしていく。残念ながら宇宙船にワイパーの装備はない。
「観測窓閉鎖。速度をおとします。さっきからレーダーで監視しているけど直径数センチから数メートルの岩石がたくさん浮かんでいるみたいなのよね」
モニターで確認したうえでウィリアムは考え深げに言った。
「明るい色だな。浸食をあまり受けていない感じだし『ハルバン』の着陸地点で見た石灰質の岩石に似ている。ひょっとしたら『辺(エッジ)』からこぼれ落ちたものかも知れない」
カシルはうなずいた。
「ありそうな話ね。『イレギュラー』まで十キロを切ったわ。推力停止。このあたりで様子を見ましょう」
静寂がよみがえり子供たちがきやきや笑いあっている声が船内に響いた。ミヒョンがエネルギー充填百二十パーセントで目をさましたらしい。カシルは外部カメラのひとつを最大望遠に切り替えてモニターに映像をうつしだした。
「すこしガスっているな。偏光フィルターをかけてみてくれないか」
「了解。――目の錯覚かしら? なにか動いているみたいに見えない?」
コンピューターが画像補正してくれるから無駄なことなのだが、習慣でついウィリアムはモニターディスプレイに目をちかづけ、そして息をのんだ。
「おいおい、こいつは――『蜘蛛』だ」
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