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「それを解決するためにはスマリヤンの方法に従ってはじめから機械そのものに幾つものタイプを設定し相互の関係――壊したり産み出したり――を決めておけばいい。そしてたぶん現実にそうしたものとしてイシュタルたちは作り出されたのでしょう……。でもそうしたところで長期間にわたってはたしてその集団が安定するかどうかは保証のかぎりではないのよ。スマリヤンもそのあたりは実際にそうした実験をやってみないことにはわからないと言っている。それがたとえ決定論的なシステムでも複雑な相互作用を長い時間行うなら結果がどうなるかを予想することができないから。そして、もし地球人類がそこまで考えたなら、たぶん逆手をとって機械を製造する段階で非決定論的なプロセスを導入したのかも知れない。つまり自己再生プログラムにある種の冗長性とゆらぎを持たせるということ。たぶんそれは環境を認識してそれと相互作用しつつ自分と少し違ったプログラムを持った機械を作り出すようにデザインされていたはずだわ」
「――いわば人為的に導入された突然変異と自然淘汰、ってわけだね」
「うん、機械たちはそのときどきの相手によって獲物になったりハンターになったり、同盟を結んだり敵対したり、複雑な関係のなかでひたすら生存競争をつづけたはずよ。そうした集団に何百万年という時間を与えれば地球で生命に起こったのと良く似たことが起こったとしても不思議じゃない」
「……適応と進化か?」
「そう。さらに最終的にそのプロセスが生み出すものがチューリングマシンの限界を超えた推論が可能な実存段階(エグジステンス・レベル)の知能であってもいい……。つまり『長老機械』と呼ばれる神話的存在にまつわるシーカーの噂話もあながち法螺とも言えなくなるの。銀河のどこかに人間に匹敵するほど賢くなった機械たちの種族がいる――古の地球人たちはたんに自分達の惑星と良く似た環境が都合よく見つかることに賭けていたわけじゃないのかも知れない。それをゼロから作り出すことのできるほど強力な知性がいずれ誕生するように慎重に配慮していたのだとしたら?」
「進化の究極で人間に匹敵する意志と創造性をもつにいたったティプラー・フォンノイマン機械――人の知恵を持ちながら無限の時を生きることができるそれらはすでに神にも等しい存在になっている、というあれか。うーん、こいつはまさにオールマイティのカードだな。そんな『機械じかけの神々』が力をあわせれば、たしかにこんな途方もない世界も創造できるかもしれない……」
 ウィリアムは観測窓から外を眺めながらつぶやいた。

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