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「ユルグ! ミヒョンを連れて今すぐ窓から離れなさい!」
 ウィリアムが反応するより早くカシルの緊張した声がとんだ。いっしゅん空白になっていた彼の心もすばやく回転をはじめ慎重な口調でウィリアムは妻に警告した。
「真北の方角にべつの一機。南にもちょっと離れてさらに一機。あわせて三機いる。あわてて動かないほうがいい。相手のボディをよく見てみるんだ」
「見えるわ。でっかい推進装置がついている……これって、やっぱり『蜘蛛』の仲間かしら?」
「新種だな。どうも見たところエアインテークつきのジェットエンジンに思えるんだ。しかもかなり強力なやつがふたつ。気にいらないな。全体のデザインも空力を考えた大気圏内飛行用――こいつらよほど素早いぞ。本気で攻撃されたらちょっと防ぎきれそうもない。刺激しちゃだめだ」
「このままの姿勢でゆっくりと後退するわ……やっぱり照明弾はまずかったかな」
「後悔してもあとの祭りってやつだ。まあ『辺(エッジ)』に実害を与えたわけじゃないし、何ごともなく見のがしてくれるといいんだが……」
 まるでスズメバチの巣にうっかり出くわしてしまったハイカーといった有り様で『サガ』は足音をひそませるようにしてお尻から退いた。相手も距離をたもったままついてくる。空気抵抗分を補うべく制御噴射音が短く響くたびウィリアムは冷や汗が背中を流れるのがわかった。
「どうも『辺(エッジ)』を架け替えるとき、はじめにケーブルをどうやって渡すのか気にはなっていたんだよ。やっぱり空を飛べる作業ユニットがいたんだ。たぶんこいつらのほかにもいろいろなタイプがあるんだろうな」
「例によって後知恵だわね。ちょっと考えればわかりそうなことなのに気づかないもんだわ……背後にかなり大きな雲がある。あのなかにまぎれこみましょうか」
「うん、どうやらこいつら今のところ攻撃する意図はないようだけど、こうぴったりまとわりつかれていてはうっとうしくてかなわない。うまく逃げ切れるかな?」

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