[3−11]
茜雲浮かぶのどかな空間での息詰まる時間だった。たぶんこの機械たちはカメラとレーダーでこちらを認識しているはずだ。それなら雨雲に隠れて姿をくらませることは可能だろう。
「気流が不安定になってきた。ここは折れた『辺(エッジ)』が作る乱流が重なりあう場所なんだろうな。ユルグ、ミヒョン、加速シートに座ってシートベルトをしていなさい」
『ジェットスパイダー』たちとの距離がすこしひらいたようだ。観測窓に細かい水滴が付着しはじめてその姿がにじんでいる。たぶん相手からもこちらがはっきりと視認できなくなっているはずなのだが――。
「モニターカメラのドームにも雨粒がついてきている。この世界を飛ぶときにはワイパーが必要不可欠ね」
「……またまた後知恵ですまないけど、いま思いついた。たぶん奴らのカメラはワイパーつきだぜ」
「ひゃっ……そうか!」
「この際、完全に雲のなかに隠れるしかないよ」
「最悪だわ。ほとんど見通しがきかない状態で水滴だの岩石だのがぷかぷか浮かぶ空間のしかも乱気流のなかにつっこむっていうんだから……モニターを赤外線モードに切り替えて手探りで飛ぶしかないわね」
カシルは一瞬バーニアを全力噴射させ、『サガ』はミルクのように白濁した空間に突入した。
「うまくいきますように! ――これで連中を撒けなきゃ生涯まとわりつかれたままだぞ」
ふたりは『ジェットスパイダー』たちがあきらめて去っていってくれるまで隠れているつもりだったが、いざ試してみるとどうやらあまり長く雲の中にはいられないらしいことがわかった。『サガ』の球形の船体は空気抵抗も大きく乱流のなかの飛行はまるで快適とは言えないのだ。加えて雨粒がレーダーを混乱させ、赤外モニターの画像もせいぜい数百メートル先をぼやっと浮かび上がらせるだけだから、カシルの感じているストレスはウィリアムにも容易に想像がついた。ちょうど昔の船乗りが夜の嵐をついて帆船を走らせているようなものだろう。『暗礁』ならぬ浮遊する岩石にぶちあたる危険もかなり高いはずだ――。
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