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「なにか問題?」
「いや――トラブルじゃない。魚らしいものがいたんだ」
 彼は小さな黒い影が幾つもすばやく水面下を動くのを眺めながら言った。「しなやかですばやい動きだ。たぶん脊椎動物――小魚の類だろう」
「こちらでも確認。この世界が地球環境を再現するためデザインされたとしたら魚がいてもべつに驚くべきことじゃないわ。今夜の献立は焼き魚かな?」
「夕食の材料にするのは無理なようだ。動きが速すぎて捕まえるどころかじっくり観察するのも難しい。すくなくともこんな甲冑をつけていてはね――」
 ウィリアムはフェイスプレートを水面ぎりぎりまで近づけた。
「こうして自分の影をつくるとすこしましだ。それにしても数メートルより深いところはほとんど見えない。透明度はあまり高くないようだ。水中に有機物が多いということだと思う。ぎゃくに魚にとっては住みやすい環境なのかも知れない」
「ウィル? 気づいてる? 画面の左上になんだか白っぽいものが映ってるんだけど?」
 彼は小魚の群から目を移して思わず苦笑した。
「波紋にまぎれて気づかなかった。あいかわらず目ざといね。――クラゲだ。いいサンプルになりそうだ」
「捕獲できる?」
「その気になれば水中に潜れるけれどその必要はない。じゅうぶん腕が届くよ」
 念のために船体の磁気プレートに足を固定してからウィリアムは慎重に気密服のグローブを水の中に差し入れた。

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