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「おや?」
「こんどはなに?」
「気密服ごしだから微妙だけど、なんかやけにねっとりした印象だ。水というよりスープに腕をつっこんだみたいだよ」
「粘性が高い?」
「そんな感じかな……蒸発はしにくそうだ。よし! つかまえたぞ」
肩ぐちまで浸した腕をひきあげると池の水がまとわりついてくる。断熱服地は親水性が高いからほうっておくとそれはまたたくうちに気密服の表面のすべてに薄く広がった膜をつくってしまうだろう。彼はクラゲを水面の少し下でつかんだまま反対の手でしごくようにして水分を押し戻した。無重力生活の経験からウィリアムにはわかっていた。大量の――とくにこうした粘性の高い液体を最終的に身体から液球としてうまく引きはがすのは難しいものだ。むしろ身体の一部を水面に接触させたまま連続した液内部の流れを作るようにしたほうが素早く容易に身体表面の水分をぬぐうことが出来る。つまり地上では自然に重力によって滴り落ちる流れを無重力空間では意識的に表面張力と慣性作用によって作り出す必要があるのだ。
「なるほど。そうか――」
「はい?」
「『サガ』を沼からひきあげるために何が必要かがわかったよ。水をかき取って沼に押し戻してやるためのスクレイパーだ。モップの柄の先にゴム製の特大ブレイドをつけたようなものがあればいい。こいつは船の工作室で簡単に作れるよ。あとは家族総出で甲板掃除だな……」
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