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「え?」とつぜんそう尋ねられてウィリアムを記憶を確かめるのにすこしてまどった。「ああ、そういえばどっかで聞いたような気もするな」
「図体こそ大きいけどたぶんこの虫たちはゴキブリよりシロアリに近いのかもしれないよ。これはいわば水中の蟻塚ということじゃない? たんなる通路じゃなく、たぶんこれこそが巣なのよ!」
「うむむ、なるほど――だから突然どこからともなく現れたと思うと綺麗さっぱり姿を消してしまうんだな。しかし……この『蘭』はこいつらに宿を提供して何の見返りがあるんだい?」
「まさに蘭科の植物と昆虫の関係じゃない? 受粉の手助けをしてもらっているのだとしたら?」
「そうだな。その通りかも知れない。地球でも蘭とシロアリはともに大成功をおさめた種族らしいからね。まさにこの星の生態系の頂点に君臨する最強コンビというところかな」
「ひょっとしたらこの虫たちがこの世界の主とか?」
「まあ、そこまでいっては言い過ぎという気もするけど、あたらずと言えど遠からずかも知れないな。地球だって見方によっては昆虫の惑星と呼べるぐらいだからね――急に端末に何を打ち込んでいるんだい?」
「霊感ってやつ。雨にあえばどうしても観測窓が濡れることになる。もしもこの虫たちが大繁栄をとげていたとしたらどこへ行っても今回と同じ危険があるわけでしょう。でもこいつらが本当にシロアリの仲間だったら上手く防ぐ方法があるかも知れない」
「あるとしたら素晴らしいね。どうやって?」
「虫たちには苦手な樹木が存在するのよ。たしか桧の仲間だったと思う。その精油成分がカギ――」カシルは検索結果を読み上げた。「α-カジノール、Τ-ムウロロール……か。こいつを合成することはできると思うな。つまり、シロアリが嫌う化学物質をあらかじめ船体に塗りつけておくってわけ」
「なるほど……うん、グッドアイディアだ。ぜひやってみるべきだよ!」

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