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 かつてボートを桟橋に確実に係留するためには三本の舫綱が必要だった。無重力空間で宇宙船を固定しておくのも基本的には同じ。ウィリアムは岩塊の表面三カ所にアンカーを打ち込みそこから延びたロープを船体の係留索止めに結びつけた。桟橋と船体の間の緩衝材の役割はランディングギヤの精巧なサスペンション機構がうけもつ――ただいざとなったら船内から瞬時にロープを切断できるようになっているところは地球の海に浮かべる船とはちがう。宇宙空間での危険ははるかに速いスピードでやってくるだろうからだ。
 それでも『注意!爆裂ボルト』と書かれた警告文字のすぐ上で係留索のテンションを確認しながらウィリアムはこの星に来てはじめて心安らいだ気がした。まがりなりにも地に足をつけるということは人間にとって大きな意味をもつらしい。つまるところいままでは大気圏突入につづく一連のシークエンス――これこそがほんとうの意味での『ランディング』と言えるわけだ。
 慣例ではその時点で天体の命名の儀式が行われる決まりになっている。しかし肝心の命名者は『サガ』をこの岩にランデブーさせるのに精力を使いはたしてしまったらしく、いまは船内のベッドで白河夜船のありさま。しばらくセレモニーは延期するよりないだろう、まあべつに急ぐこともない――と彼は肩をすくめた。

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