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ママをぐっすり寝かせてあげるためにウィリアムは子供たちを外に連れ出した。今回はやれありがたや、あの重くかさばる気密服はなしだ。生態疫学データに基づいて合成されたIgパッチナノのおかげでようやく全員船内と同じ軽装で外を動き回れるようになったのだった。宇宙での厳しい暮らしに慣れた者にとって素肌で外気に触れられるという状況はまるで天国にいるような気安さだった。まあ、ほんとうに天使のように空の彼方へ飛んでいってしまわないように命綱こそ必要だったけれど――。
この岩塊は直径が二百メートルほど、ほぼ球形で北の空を向いた部分に直径二十メートルほど円形にくぼんだ部分があった。岩の表面はまさにサマータイムのキャンプ場にふさわしく、芝生……ならぬ苔、が一面覆いつくし、ところどころ丈の低い草花も繁殖していた。たぶん多穴質の表面に染みこんだ雨水が植生を支えているのだろう。ただえぐれたクレーター部分だけは内部の岩に近い成分が露出しているためかまったく植物の形跡はなかった。
この窪みはごく最近べつの岩塊にぶつかってこすり取られた痕かもしれない。ウィリアムはしっかりしたその表面にペッグを打ち込みながら思った。大気の気まぐれな影響で岩石や水球はしばしば互いにぶつかりあうはずだった。『サガ』のレーダーをオートスキャンモードにしておいたのは正しい判断だったろう――そんなことをとりとめもなく考えていると、突然「ミーちゃん喉かわいた!」と傍らで娘がぐずって袖をひいた。
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