[5−3]
「わかったわかった。ただ、いま手がはなせないんだ。ユルグ、すまないがミーちゃんに水をあげてくれないか」
彼はプラットホームユニットの支柱を片手にハンマーをもう一方の手にもったまま息子に声をかけ、そのまま作業をつづけた。
「熱い!」
とつぜん小さな悲鳴が聞こえ驚いてウィリアムはふりむいた。ユルグが身を縮めて自分のほうを呆然と見つめていた。ミヒョンはそのかたわらで何が起こったのかわけがわからない様子だ。わけがわからないという点では彼もいっしょだった。息子の周囲に熱を発しそうなものはなにもないのだ。
「え? どうした?」
「熱かった――びっくりしたー」
もういちどじっくり眺めてまだウィリアムには理解できなかった。息子の目の前にふわふわ小さな水玉が浮かんでいる。たぶんミヒョンにあたえようとしてうっかりこぼしてしまった水筒の水だろう。船内の給水器からでてきたもので冷たいことはあっても熱いはずはなかった。
「手を見せてみろユルグ――なにが熱かったって?」
「なんかよくわかんないけどすごく熱かったよ」
息子の手のひらがすこし赤くなっている。ほんとうに何か熱いものに触れたようだ。
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