[5−4]

「――いったい何に触ったんだ?」
「何にも触らないよ!」
「じゃあ何をした? もう大きいんだからちゃんと口で説明してくれ」
「だって……ただ手を水で濡らそうとしただけだよ」
 やむなくユニットの取り付けはあとまわしにしてウィリアムは息子の前にただよう小さな水の球を見つめた。ほとんど完全な球に近いそれはわずかに振動しながら日差しのなかできらきらと輝いている――。
「こうやって……」
 ユルグはおそるおそるといった様子で水球に手をのばす真似をした。そうすると掌の上を水玉の明るくぼやけた影が通過した。
「きゅうに熱くなったの」
 しばらく考えているうちに何が起こったかウィリアムにも遅ればせながらわかってきた。そう気がついて岩塊の表面をよく見ると確かにところどころ苔が焦げたように退色している部分があった。
「そうなのか!」父親がとつぜん大声を出したのでユルグはびっくりして手をひっこめた。
「―― そうだったんだ。ちょっと考えればわかることを、この……あ、いや」つい悪態をつきそうになってからくも堪え、ひとつ咳払いをしてからウィリアムはつづけた。「おとうさんが悪かったよ。おまえたちに前もって火傷の危険があることを警告してやらなければいけなかったなあ」

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