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子供たちのかけ声にふと薄目を開きそちらを盗み見てみるとどうやらトランプ遊びをはじめたらしい。無重力環境でつかわれる微弱な磁気を帯びたカードを使えば『プラットホーム』の上でもなんの問題もなくカードゲームが可能なのだ。しかしどうもふたりのやっているのは昔ながらのゲームの遊び方をちょっと変形したもののようだった。
すにっぷ、すなっぷ、すたーらむ……と唱えつつ子供たちはたがいに手札を場に晒している。それぞれ同じスートの札を数字の順に場にだしていくのが正しいやりかたのはずなのだが、横目づかいでここから観察するかぎりではどうやらルールを守っているのは兄だけでミヒョンのほうはめちゃくちゃな順番で手札を切っている。それではユルグのほうはまるで不利だしそもそもゲームとして成立しないはずだ。それでもあえてやめないのはもっぱら妹を退屈させないためにつきあってやっているのにちがいない。事実ミヒョンは熱中して自分の手札がなくなると声を出して喜んでいる。正式な『スニップスナップ』は数字をまだ読めない妹にはまだ無理……ということでユルグが考えついたいわばローカルルールに違いない。たしかにカシルの言うとおり――ユルグはだんだん兄貴としての自覚を持ち始めたようだった。
にんまり微笑んだままデッキチェアのうえで再びくつろいだ姿勢にもどり彼はひとり満足げなため息をついた。
……すにっぷ!
……すなっぷ!
……すたーらむ!
……はいどろじぇんらむ!
……りぐ!
大人には不可解な熱心さで飽きることなく遊びつづけるその声を聞くともなく聞いているうちにウィリアムはいつしか心地よい眠りにひきこまれていた。
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