[5−10]

 ところどころに絹雲がただよう紺碧の空間を朝日をあびつつ何か巨大なものがはばたき飛んでいた。色は青みがかった薄い灰色。翼長――あれが翼として――五十メートル近くありそうだ。全体の形はちょうどトランプのダイヤモンドマークを縦に三倍ぐらい引き延ばした感じだろうか。頭と尻尾にあたるようなものは少なくともここからでは見えない。まるで巨大な鳥の翼だけが羽ばたいているような不思議な光景だが、しかしゆったりとしたその波打つような動きはどこか馴染みのあるものだった。記憶を探る努力でかすかに顔をしかめたのちウィリアムはうなずいた。――そう、記録映像で見たことがある、地球の熱帯の海に住むあの生き物――マンタ、すなわちオニイトマキエイのはばたきにそっくりなのだ。ただし翼長は二十倍以上ある……あんなサイズの生物がこの世界にいたとは!
「カシル、カシル――聞こえるか? もし目が覚めているなら電子スコープを持って窓の外を見てみろ。北の空だ」通話装置でそう船内に呼びかけるとすでに目を覚ましていたのだろう、ほとんど間髪をいれずカシルの声が応じた。
「……ええ、見える。あれはいったい何?」
「こちらもいまさっき気づいたところなんだ。遠すぎてよくわからない。しかし間違いなく生き物だな――超特大のマンタみたいだ」そう言いながら彼は熱心に観察をつづけた。

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