[5−11]

「……どうも何かを捕食しているような気がするんだが、電子スコープではそのあたり、見えないか?」
「うん、翼らしいものの付け根あたりに口があるらしいわ。丸い開口部が大きく開いて皮膚が伸びきって血管のようなものが透けて見えている。でも開きっぱなしで何かを咀嚼している気配はないわね」
「ふむ――そもそも何を食べてあんなに大きくなれるのだろう? 確かにあの巨大さとゆったりした動きからして他の飛翔生物を捕獲するのはかなりむずかしそうだ」
「肺呼吸するマンタ――だとしたら、プランクトン?」
「ありえるな――地上最大の動物だったヒゲクジラたちの巨体を維持していたのはプランクトンやオキアミのような微生物だった。あの空飛ぶ怪物の餌も……空中に漂うプランクトンに似た極小の動植物かもしれない」
「でも大気中にそんな高い密度で微生物が生息しているかしら? 飛行中に分析した大気サンプルではせいぜい一立方メートルで数個というオーダーだった――そもそもなぜいままであの手の生き物を一匹も見かけなかったの?」
「そのあたりだな……」しばし沈黙し、考えてからウィリアムは慎重に言った。
「この場所、この時間がカギなんじゃないだろうか。なにかの作用であそこの空間でプランクトンが大量に発生しているとしたら――」
「なにかの作用って?」
「気温と日射と栄養、それらがたまたま好条件で重なることだよ……ちょうど南氷洋みたいにね」
 確かにその想像はあたっているかもしれない。ウィリアムは思った。いま思えば、あの真夜中の壮大なバラ色のスクリーンを作り出しているのは微小な氷の結晶なのだ。

戻る進む