[5−14]
「カシル、エアロックまで来てミヒョンを受け取ってくれないか。子供たちは起きたばかりでぼうっとしていてまともに綱をたどれそうにない」
「わかった。あなた、いそいで! 例のふたつはまっすぐこの岩塊を目指しているわ。一分以内に到着しそうよ」
「ちくしょう、休日の奇襲攻撃ってやつだな!」
言われるまでもなく可能なかぎり急いで――しかしなおかつ漂い流れてしまわないように慎重にロープを繰りながら――船にたどりつくとウィリアムは出迎えたカシルの腕にミヒョンを押しつけるようにしてあずけ、すぐにとって返した。船体を半ばまわったところで目にした光景にしかし彼は一瞬全身の血が凍りつくような衝撃をうけた。『プラットホーム』の上をかすめるように――ひとつの巨大な影が身体をくねらせるようにして飛びすぎていくのを見たのだ。
先尾翼式の『鮫』――と一瞬ウィリアムは思った。体長は五〜六メートルほど。とがった先端に半ば開いた巨大な口にはどう猛そうな鋭い歯がびっしりと並んでいる。色は――あたり一面が空、という世界での迷彩として進化してきたのだろう――やはり青みががった薄い灰色。肉食動物然としたがっしりした顎をもつ円錐形の頭部が胴体につながるすこし後ろから五十センチぐらいの三角形のヒレがぴんと水平につきだしている。最大直径1メートルほどの細長い紡錘状の身体の背からそれよりひとまわり大きいやはり三角形の背びれ。そして後端にあるコウモリの翼にも似た伸縮自在の後ヒレはいっぱいに広げると翼長三メートルを越えるかもしれない。全体のイメージはかつて地球の空を飛んでいた先尾翼(カナード)式ジェット戦闘機。いかにも敏捷かつ力みなぎるハンターという印象だ。
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