[5−17]
気がつくと目の前にゆるんだロープが漂い浮いている。あわててそれを掴んで、それから周囲をあわただしく見やってウィリアムは愕然とした。ユルグがいない!
「カシル! カシル! たいへんだ……」
彼の声をうち消すようなカシルの悲鳴にちかい叫びが聞こえた。
「早く船にもどって! 『プラットホーム』といっしょにユルグが流されている!」
反射的に空をあおぎ、息子の姿を探すがやはり見えない。たぶんサガの向こう側を流されているのだろう。幸い船へのロープはまだ切断されていなかった。彼はロケットのような勢いでそれを辿りエアロックに飛び込んだ。そうしているうちにうっすらと記憶が蘇ってきた。そう、岩に叩きつけられる直前、思わず怪我をさせまいとして本能的に『プラートホーム』めがけ息子を宙に押しやった自分を思いだしたのだった。たしかにあの時点ではそれしか方法がなかった。とはいえそれが果たして結果的に正しかったかどうか――は、これからの経過しだいだった。焦燥に追い立てられるように乱れた気持ちでそう自分に言い聞かせながらエアロックに入る直前、まるで彼の心を反映したかのように一陣の突風が避暑地風のゆったりしたパンツの裾を激しくはためかしていった。じつに間の悪いことに、なぜか風が強くなってきつつあるようだった。
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