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「岩の表面を削り取っているように見える……」
「なんで子供たちを襲ったのかしら?」
 ウィリアムの心に野生動物の生態への類推とともに理解がひらめいた。
「岩塩だ! 水分が蒸発した後のミネラルが目当てだったんだろう。たぶんこのクレーターはやつらがもともと長い間に少しづつかじりとって作ったものなんだ」そこまで思いいたった彼は無性に自分が腹立たしくなってクッションの上からコントロールルームの構造材をなぐった。「なんてことだ――そうとわかっていればわざわざあんな場所にキャンプを設営はしなかった……」
「ユルグが流されたのはあなたのせいじゃない。あんな生き物がいたなんて誰にも予想できるわけないもの。いまはなによりユルグを救出することに集中しましょう!」
「そうだな」一転して冷静さを取り戻した妻に逆に諭された形でウィリアムは高ぶった気持ちを落ち着けようと努めた。
「とりあえず『鮫』の危険はない――あとは、やつが気持ちをしっかり持って下手に動いたりしないでいてくれればいいんだが……出航はまだか?」
「いまシステムの自己最終チェックが完了したところ――よし、バーニア始動します。あなたはミヒョンといっしょにシートについて!」
 カシルがスイッチを入れると大気内ならではの鋭い音とともに爆裂ボルトが艫綱を切断した。
「離脱確認――姿勢制御とともにメインエンジン起動開始。起動シークエンス完了後にフルスラスト!」

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