[5−20]

 やがて背中をどやしつけられるような衝撃が彼らをシートに押しつけた。しかし総重量千トンを越える船体はそれでもいまの彼らにとってじれったいほどゆっくりとしか加速されない。悪いことにいっそう強さを増した風のため船体が細かく揺さぶられてもいた。
「どうにも間がわるいわ。ますます気流が乱れてきた」
「くそ、こんな時にかぎって――」
 窓の外の青い空が急に雲に被われはじめたのを眺めながらウィリアムは毒づいた。
「こんなことはいままでなかった――こんな早さで天気が変わるなんてことは!」
「局地的な渦巻きにたまたま遭遇したのかもしれない。べつの『イレギュラー』が近くにあるのかも……」
「こんな荒れた状態でランデヴーできるか?」
「わからないけどやるしかないわ。これ以上風が強くなるまえに追いつけることを祈りましょう。でもいざとなったらあなたの手を借りなければならないかもしれない……」
 見る見るうちに周囲に雲がうまれていった。やがて空全体は灰色に閉ざされ、明るい銀色から暗灰色までの雲の畝を背景に『プラットホーム』は小さくシルエットになって見えるだけになった。
「完全に気流に乗っているわ。かなりの速度で流されている」
「こちらももっと速度をあげたら?」
「無理――『プラットホーム』と船の質量が違いすぎる。むこうは木の葉みたいに風のきまぐれな動きにもてあそばれてるから、ここで焦って速度をあげるとコントロールを失ってしまう怖れがある。むしろメインエンジンも危険なので停止したほうがいいわね。バーニアで細かく操船しながら風向きがたまたま望む方向に変わるのを待つしかないわ」

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