[5−21]

 ちょうど風に吹き飛ばされ地面を転がりまわる帽子を拾おうとするような状態だった。帽子ならたとえうっかり踏んづけたとしてもたいした損害ではない。だがユルグのしがみついている『プラットホーム』を船体に激突させることは絶対に避けなければならなかった。
 ふたりがじりじりとしているうちにやがて風向きが変わり『プラットホーム』までの距離がいっきに縮まりはじめた。
「よかった。ユルグはまだしがみついているな」
「うん――このままの風向きが保ってくれたら近くには寄せられるけど……、でもこの状態ではサガの直径以上接近するのは危険だわ……」
「わかった。タイミングを見はからってぼくが外にでよう」
「おねがい。くれぐれも気をつけて」
「ああ、大気圏内で使うのははじめてだけどスラスターを背負っていくよ」
「うん、あっ、あと――骨伝導ヘッドセットを持っていって! たぶん風の音でお互いのしゃべる声は何も聞こえないでしょうから」
「了解! そいつはまさに的確な指示ってやつだ」
 カシルの腕に触れ、それからさすがにお兄ちゃんの危機を感じ取っているのだろう乗船してからもずっと神妙にシートに座ったままのミヒョンの頬をなでるとウィリアムは唇をひきしめ船外作業用エアロックに向かった。

つづく

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