[6−2]

「イルスター!――つむじまがりのつむじ風め!」
「なんですって? 音割れしてよく聞こえないわ。マイクの感度はいいからそんなに大声でなくてもOKよ」
 ウィリアムは通話装置のボリュームを調整して報告をつづけた。
「……いまスラスターを背負った。それにしても――はっ、少々サイズ違いだな」
 本来気密服の上から装着するように設計されているスラスターはこの軽装では一杯に装着ベルトを締め付けてもいまひとつ収まりがわるかったが、ウィリアムはかまわずスイッチをオンにしてシステムが立ち上がり自己診断を終えるのを待った。
「よし、準備完了――いつもと勝手が違うから命綱はつけたままにしておく。いちばん長いやつを選んでおいたから作業の邪魔にはならないだろう……」
「了解――もちろんそれがいいわ。あなた自身を回収するときにも必要になるはず」
「そうだな。それじゃ行くぞ」
 飛び立ったとたんに風につかまれて、みるみるうちにウィリアムは命綱の長さ一杯まで吹き飛ばされた。手荒いショックとともに急激にふりまわされたスラスターの枠組みがバイオリンの弦のように振動し、緩めの装着ベルトが肩と腹に激しく食い込んで彼はひゅっと息をしぼりだされた。
「ウィル! どんな具合? だいじょうぶなの?」
「ああ――あやうく放り出されるところだったよ。さっそく命綱が役だった!」
「どこにいるの? 姿が見えないけど」
「大丈夫、船体のすぐ後ろにいる……だが、こいつは想像した以上だ。姿勢を保つだけでもかなり難しいな」
 コントローラーを操り細かにイオンジェットを噴射しながら彼はともすればバランスを失わせようとする突風と懸命に戦った。

戻る進む