[6−3]

 突然雨粒が大量にぶつかってきた。みるみる濡れ始めたスラスターの制御パネルを見てウィリアムはうなり声をあげた。真空中で使われる電子装置は高エネルギーの電磁波や荷電粒子への対策は十分なされてはいても、もちろん防水処置などしてあるはずもないのだ。
 いまわしい雨粒は彼の両目もふさぎつつあった。コントローラーで両手がふさがっているからまつげにまとわりつく水をぬぐうこともできず、ウィリアムは半ば視野を塞がれたまま灰色の雲間を息子のしがみついたプラットホームの影を懸命にさがしもとめた。
「カシル――見つからないんだが。ユルグはどこだ?」
「船体下方十度、二時の方角――あなたの場所から二百五十メートル……」
「見えた。あそこか――」
「いまそちらに船を持っていくわ」
「頼む。できるだけゆっくりやってくれ……」
 サガの集合ノズルで炎がひらめいてウィリアムはロープがぐっと引かれるのを感じた。息子のしがみついたプラットホームがしだいに近づいてくる。
「ちょっと高すぎる――あと十メートルほど下方向だ……」
 ユルグは目を閉じたままぐったりとプラットホールの手すりに身をからめている。雨にぐっしょりと濡れたうえにこの強風では刻々と体温を奪われているだろうことは間違いない。彼はスラスターを必死て操って距離を縮めようとした。せめて声がとどくぐらい近寄ることができれば――。
 コントローラーをわずかに傾けたとき、突風が彼の身体をつかんで一瞬のうちにひっくりかえした。緩めの装着ベルトが災いして握る手に思わず力が入り、片側の噴射ノズルから予想以上の勢いでイオンジェットがほとばしった。
「ウィル!」
 ヘッドセットからカシルの悲鳴に似た声が聞こえた。つぎの瞬間ウィリアムは自分の身体が独楽のような急速な回転をはじめていることを感じた。
「――だめだ! コントロールがきかない!」

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