[6−5]
血走った目でウィリアムは周囲を見回しプラットホームを探した。さっき手が届きそうだったそれはふたたびはるか彼方に遠ざかってしまっている。自分が揺れ動いているせいか、あるいはほんとうに風であおられているのか――この距離からでも雲間をひらひらと漂うその上にいまだじっとしがみついて寒さに耐えている息子の表情を彼はありありと見たように感じた。
「こんなことで諦めたりできるわけがない。どんな方法でもいい、プラットホームにたどり着けさえすれば――」
彼は目に見えぬ風をつかむように両手と両足を広げた。叩き付ける空気の塊で掌がびりびりと震える。試しに左腕と左脚をすこし曲げてみると空気抵抗の差ができて身体は傾きながらその方向に流れる――デリケートだがコツがわかればなんとかなりそうだ。いままでしゃにむにスラスターの噴射力に頼っていたが、ひょっとしたら間違いだったのかもしれない。この世界が送ってくる風に逆らわずその力を逆に利用したほうが……。
「カシル――そちらでもうすこし距離を縮めてくれたらなんとかなると思う」
答えはなかったがすぐにサガのバーニアが断続的な噴射をはじめた。沈黙のうちにもユルグの救出をすべて自分にまかせるしかない妻の気持ちが懸命なその操船ぶりとともにウィリアムに痛いほど伝わってきた。
また雨が強くなり風にのってやってくる大粒の水滴が頬に突き刺さる。しかしウィリアムは渦巻く雲を背景にしたプラットホームのシルエットからひとときも目を離さなかった。
「いいぞ――その調子でまっすぐやってくれ!」
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