[6−7]

 息子の体温が危険なほどまで奪われていることは氷のように冷たい手足からも明らかだ。時間を無駄にはできない――彼はプラットホームを強く蹴ってふたたび虚空に漂いでた。カシルはすでにEVAハッチに向かっているはずだ。あきらかにぎくしゃくした動きからサガがオートパイロットに切り替えられたことがウィリアムには見て取れた。
「ユルグ、がんばるんだ。あとすこしの辛抱だぞ」
 かすかに頭をうなずかせる息子を雨と寒さから守るべく彼は両腕と両脚で包み込むようにした。露出した腿や腕に吹き付ける雨粒はあいかわらず痛いほどだ。両手両足を縮めているので回転を止めることができずまるでとりまく何者かに四方八方から打ち据えられているかのよう。さらに悪いことには、渦巻く雲海を一瞬眩く照らし出しその後に不気味につづく轟きを残す雷は、明らかにしだいに近づいてきつつある。
 ……雷の源は静電気だ。ユルグを抱き目をつぶりじっと耐えながらもこの期に及んでなおウィリアムは考えるともなく考えていた。つまり乱流のなかで多量の氷の粒が舞っているということだが――この世界のどこでそんな激しい熱交換のメカニズムが生み出され得るのだろう?
 きゅうにロープがひかれるのを感じて彼は薄目をあけた。船体のカーブで見えないがどうやらカシルがエアロックにたどりついたらしい。親子二人を合わせた重量は百キロを越えるはずだがもちろん無重力の世界では問題ない。しかし気まぐれに吹く風の抵抗は無視できないはずだ。最終的には彼女ひとりでじゅうぶんウィリアムたちをひきよせられるに違いないが――問題は時間だった。たまたま目を開けたすぐ鼻先に青白い柱状の巨大な閃光が突っ立ち彼の背中にどっと冷汗がふきだした。
 ピッシャーン!
 ユルグが小さく悲鳴をあげてしがみついた。

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