[6−8]
「カシル! 頼むからいそいでくれ。まじでやばいぞ、これは」
「……やっているわよ!」
息をはずませた声を聞くまでもなく妻が全力をつくしていることはわかっていた。しかしふたりがいまいるのは長くのばされたロープの先端――雷にとってはまさに絶好の標的に違いない。
「くそ、マシンよ! われらを救いたまえ!」
歯をくいしばり、息子の背にまわした手に力を込め、神となった機械たちに祈り……まるで永遠にも感じられる時間の果てにふと気づけば、ようやく彼らはEVAハッチの間近にたどりついていた。
「よし! 把手をつかんだ。きみ自身に命綱をつけたうえでハッチから身をのりだしてくれ。ユルグをそちらに手渡すぞ!」
「うん、準備できてる」
ハッチから妻の身体がのぞき黒い髪がさっと風になびいた。ユルグのパンツの腰のあたりをしっかり握ってウィリアムは両腕をめいっぱいさしのばした。ひろげたカシルの腕が息子をしっかり抱き取るのを確認し、彼がようやくほっとためいきをついた――つぎの瞬間、天地が崩れるような激しい轟音がほんの身近で炸裂し、驚きのあまり手足を縮めたまま彼は数秒間呼吸ができなかった。
「……どこにおちた?」
答えるカシルの声は息子を抱きしめているために――そして涙のために――くぐもっていた。
「さっきまでユルグがしがみついていたプラットホームだと思う。ほんとうに間一髪だったわ!」
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