[6−9]

 放心してしばらくエアロックの中で糸の切れた操り人形のようにぐったり漂っていたが、やがてウィリアムは気をとりなおすと己に鞭うってコントロールルームへと向かった。カシルはユルグの世話で手一杯――雨と強風にもてあそばれたままのサガをいま操船できるのは彼しかいないのだ。
 操縦席にすべりこみ手動に切り替えて不愉快な船の挙動を押さえるべく小刻みにバーニアを吹かせる。カシルほどの腕は望むべくはないにしても融通のきかない自動装置よりはましなコントロールができる自信はあった。しかしそれから四半時間ほどがすぎてようやくカシルが姿を現したときもまだウィリアムは額に皺を寄せたまま必死に風に対抗しているだけだった。
「……ユルグの具合は?」
「疲れと寒さで体力がかなり落ちているわ。でも生命にかかわることはないでしょう。いま医療ナノを注入してすこし容態が落ち着いたところよ」
「ミヒョンのほうはどうしている?」
「ベッドのわきで珍しく大人しいわよ。さすがにおにいちゃんの危機を感じとっているみたい」
「そうか――あんな危険にさらしてしまって本当にふたりには可愛そうなことをしたな。ところでほっとしたところですまないが、こっちはこっちでトラブルに直面しているらしいんだ」
 カシルの表情が一瞬のうちに母親のそれからパイロットのそれへと変わった。
「なにか問題?」
「さっきからなんとか点火しようとしてるんだが……肝心のメインエンジンがうんともすんとも言わないんだ」

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