[6−11]

 突然はげしく連続的に船殻を叩く音が響きわたった。一瞬肝をつぶし、いったい何事かと舷窓に向けたウイリアムの目に絶え間なく透明プラスチックで弾かれる白い礫が見えた。
「ウィル、――いったい何事?!」
「大丈夫! 心配ない。ただの雹だよ」
 通話装置から聞こえる緊張した妻の声に彼はしいて落ち着いた調子で何がおこっているか説明した。
「雷が絶え間なく鳴っていることからも予想できたはずだ。どういうメカニズムかはまだはっきりしないけど、雲のなかで氷の粒が生成して互いにぶつかりあって静電気を発生しているんだ。当然大きく成長して雹になってもおかしくはないわけさ」
「そうか。通常積乱雲のなかで起こるべき現象ね」
「うん……でも違うところもあるな」少し考えてからウィリアムはつづけた。
「地球では上昇気流と重力が荷電した雪や氷塊を分離していたんだ。軽い粒は上昇し、重いものは気流が支えきれずに地上に向かって落ちていく。そこで巨大な電位差が生じて雷放電がおきる。でもここには重力はないわけだ……」
「何にしろそれにかわる別の力が働くのでしょうね」
「そうだな。ひょっとしたら慣性が重要な役割をはたすのかもしれない。軽い氷粒は風で運ばれ重たい塊はある一定の領域に溜まるって可能性も考えられる。もっともそれであれだけ強力な雷を発生させるだけの電位差を産み出せるかどうかはわからないけど――だいいちどうして氷ができるのかも謎だよ。重力と気圧を欠いた世界で大気の過冷却をもたらす急激な圧縮-膨張のプロセスがどうやって進行するのかな?」
 カシルは微かに笑いを含んだ声で言った。
「ようやく理屈をこねまわす余裕がでたようね。いつものホームズさんに戻ってくれて何より……」
 通話は切れ、ウィリアムも苦笑した。つぎからつぎへと目まぐるしく危機がおとずれているが、とにかくセイジ一家四人無事に『家』にいる。――そうとも、こんな嵐がなんだというんだ!

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