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Sugar Room Babies

第二章

中条卓

音が世界の枠を組み上げる。繰り返す音。決して止まない音。ハジメニオトアリキ。

だがぼくははじめから音を聞いていたわけではない。ぼくの意識のはじまりを彩っているのはリズム、ぼくの中に注ぎ込まれぼくを通り過ぎていくもののリズムだった。やがてそこに振動の感覚が加わった。ぼくは振動に浸され、ぼくと振動とは不可分だった。ぼくは振動そのものだった。

それからより大きな明暗のリズムが加わった。それはぼくたち自身の活動とは無縁の周期だったが、ぼくたちを包む世界そのものの周期でもあった。

やがてぼくの身体の一部がやわらかい壁にぶつかって動きを遮られた。ぼくは世界を自覚した。

世界にはぼくでないものがあり、ぼくでないものはぼくに挨拶を送って寄越した。

ぼくはぼくたちになった。

やがてぼくたちの中に大量の情報が流れ込み始めた。その大部分はママ由来だったが、やがては誰のものでもない情報、誰もが手に入れられるのに誰も手に入れようとせずに打ち捨てられていた古代の知恵がぼくたちに語り掛けてきた。

ぼくたちはぼくたちを取り巻くすべてがすでに命名されているのを知った。ならばぼくたちは自らを命名しよう。たぶんぼくたちは名付けられる前に名前を持つ初めての人間として記憶されるだろう。

ぼくたちは意識のないママの体を操って(ママごめんね)知識を入手しさえした。ぼくたちは知識に飢えていたのだ。やがてぼくたちは外の世界に触手を伸ばす方法をおぼえた。

ぼくたちが世界を知った時、外界はすでに腐敗していた。ぼくたちはぼくたちの宇宙であるこの子宮にとどまる決心をした。

そしてぼくはじっと考えつづけている。残された時間はたっぷりとあり、考えることがぼくの存在理由だからだ。

*                    *

今まで明けなかった夜が一度もなかったからといって、明日の朝もまた必ず太陽が昇るだろうという素朴な確信には何ら論理的根拠がない。地球はある日突然回転を止めるかも知れないし、太陽はある日突然消滅するかも知れない。

造物主は今までのところぼくらの基準に照らして極めて少ない頻度でしか奇跡を認めてはこなかった。だが、造物主がある日突然発狂することがないと誰に保証できよう。あるいは造物主はすでに発狂しはじめているのかも知れない。いや、そもそもの始まりから彼は狂っていたのかも知れない。

小惑星程度の隕石あるいはブラックホールが衝突すれば地球は跡形も無く消滅する。多裂型核弾頭を積んだミサイルが上空で破裂すれば東京なんて跡形も無く消滅する。最も精巧な時限爆弾である動脈瘤が脳の深部で破裂すれば人格なんて跡形も無く消え去る。DNAの塩基配列をいくつか並べ替えるウィルスが出現すれば人類は数世代で絶滅するだろう。終末はあまりにたやすく、復興は不可能に近い。

神秘家たちによれば、胎児は羊水の中で出産後の生涯を夢見ているのだという。数え切れないほどの夢、それぞれ別の人生の無数の断片が切れ切れに混じった万華鏡のような夢を。その中からたったひとつを選び取った時、胎児は生まれ出る。夢を選ぶことができなかった胎児は羊水に溺れ、また新たな受胎へと向かう。だが、意識が精神という氷山の海面から突き出たほんの一部分であるなら、夢こそが精神活動の本来の棲家なのではないだろうか。すべての夢は通底し、すべての時間は夢に凝縮する。ならばぼくはいつまでも夢見ていたい。

万物は相互に移行する。ぼくをかたちづくる元素は絶え間なく天と地の間を循環し、その中には宇宙から降り注いだものだって含まれている。ぼくの一部は絶えず死に、絶えず生まれ、絶えず姿を変えている。生まれた瞬間、いや、受精の瞬間から死へのプログラムが始動し、死の瞬間から次なる生へのプログラムが起動する。輪廻転生? ならば涅槃とは熱量死の世界に転生することだろうか。

人間が出来損ないなのではない。この世界そのものが、世界を創造したものがそもそも出来損ないなのだ。機械仕掛けの神はニュートン力学とともに滅びた。

人間は不確定性原理が支配する素粒子の世界と相対論が支配する宇宙との間に危うく浮かぶ泡だ。彼らの時間と距離はナノセカンド/オングストロームに比してあまりにも冗長で進化の時計と光年に比べればあまりにもはかない。

彼らの誇る知性は荒れ狂うイドの大海の表面をわずかに覆う薄膜に過ぎず、彼らの行動を実際に律しているのは穴居時代の呪術的思考である。数学があれほど美しいのはそれが彼らの現実とは何の関係も持たないからだろう。

ヒトはヒトとして生まれるのではなく、生まれたあとでヒトになるのだという。ならばついに生まれないぼくたちは決してヒトにはならないだろう。

屠殺される牛は見慣れぬものに脅されない限り、死の瞬間まで恐怖をおぼえない。人間の脳に巣食う牛はせっせと自らの死を用意しながら確実に屠所へ向かう。

世界はあまりに複雑なので、人はモデルを通してしか世界を把握することができない。神話を失った今、人間は世界を理解するためのモデルさえ失ってしまった。宗教でもイデオロギーでもドグマでもパラダイムでもない何か、不定形で絶えず自らを改変していく柔軟なシステムこそが今、必要なのだ。

理解したい! とあなたは叫ぶ。ワタシヲヒトリニシナイデ、とも。だがあなたの叫びも望みも決して聞き届けられることはない。人間には互いに同じ方向を向いて叫ぶことしかできないからだ。虚空に開かれたモナドなのだ、あなたは。

*                    *

よぶこえがする

あなたはそこにいる・ここではないところ

はじめのうちあなたはふるえだけをかんじている

あなたはうみにうかぶあわつぶ・あまりにちいさくたんじゅんなものがやがてさかなにすがたをかえる・さかなはねつとながれをかんじとる・さかなのめはまだとじられたままだ

やがてあなたはうごきをかんじるようになる・うんどうがきんにくにかたちをあたえ/ほねをかたちづくる・うごきにはうごきがこたえる・だがこれはなんだろう・あなたとおなじようにうごきながら/あなたではないものがここにいる

ききなれたこえのほかにもうひとつべつのこえがきこえる・よりひくいこえ・そのひびきはあなたにとってここちよい・こえのもとはあなたではなく/それはせかいのそとからきこえてくるようだ

あなたはかのうせいとしてのせかいをすでにうけとっている・せかいはとおくまでおととひかりにあふれ/きえさりそうになりながらもどこまでもつづいている

そう/あなたはすでにそんざいしてしまったのだ・そんざいとはへんかのことでもある

はじまりとしてのあなた・むげんをひめたてんとしてのあなた

てんはせんとせんとのまじわりのことだと/やがてあなたはしるだろう・すこしずつすがたをかえながらせだいをわたっていくしんごうのみちすじがたまたままじわったところ/それがあなたなのだ

あなたよりもまえにむすうのあなたのはんしんがあり/おなじかずだけのはんしんがならんでいる・あなたのうしろにむすうのあなたのぶんしんがつづき/あなたのはじまりもおわりもこまかくえだわかれしてみとおすことができない・このはのいちまいいちまい/きのねのいっぽんいっぽんをすべてしることができないように

やがてあなたはとうだろう・あなたはいったいだれなのか?

あなたのといにはこたえがない・それはせかいのはじまりとおなじくらいふるいといなのだから・あることはなまえをもつこと・あなたはあなたでありつづけるためにみずからになまえをつける

*                    *

彼らはとても幸福そうだった。片時も離れず、一睡もせずに世界中を飛び回り、誰はばかることなく口づけし、肌を合わせた。唇を読むことのできる人なら彼らのこんなささやきを見て取ることができただろう。

「ここはどこだろう」「海の底かしら」
「あの小さな家をごらん」「星が降るようだわ」
「あたたかい家庭」「悔いのない仕事」
「どこへ行こうか」「どこでも同じよ」
「夢のようだね」「もちろんそうよ」

彼らは同時にさまざまな場所に出現した。時間と空間を自由に行き来するかれらの姿は、ある特定の時間、特定の場所では半透明でぼやけていた。

彼らはありとあらゆる奇跡を目撃した。それというのも彼らはどのような奇跡の場にも居合わせることができたからだが、そんな彼らをやがて人々は奇跡の前触れ、ついには奇跡をもたらすものとして敬うようになった。

彼らは共にあるもの、すべてをみそなわすもの。しかし彼らは共感するもの、介入するものではない。

最後に彼らの姿を見たと主張する人々はこんなふうに伝えている。彼らは手に手を取りながら空へ上り、一度だけ振り向いて手を振るとそのままかき消すように見えなくなった、と。だが、時空を自由に行き来するものの最後とは時空そのものの最後でなければなるまい。

*                    *

。たっあもでうよのかるいてっあき嘆てっ知をのるいてしとんかゆえ消もに今えさ界世のそ、したっだうよるいもでてっ合めか確をのいないかしりきりたふに界世はのいなれ離も時片、い合き抱てしりたふ。たっだうそせ幸不かぜなはら彼

。だらかるいてれ溢で々人な幸不は世のこ。たいてっ回上くき大を数の人ういとた見をら彼な福幸、は数の人るす撃目を姿のら彼な幸不

。うましてえ消てっ振を首にかすからかれそ、げ上ち持を端の唇かずわのんほはら彼、とるすとうよべ伸し差を手ていづ気に姿のら彼が々人な幸不。たっだのるめつ見とっじだた、ち立とりそっひにら傍の々人な幸不はら彼

。だのたいてし在遍くねまあに空時はら彼。たし出見を姿のら彼は々人、に中の真写や記日い古たれら去れ忘。ためじはし出い思をのるあがとこた見もに昔んぶいずを姿のら彼は々人てがや、がだ。たえ見にうよのかたし現出に世のこに境を時るあはら彼

。いなれ忘てし決も事何、し解理てい聞をてべす、見をてべすはら彼

。いなさ残も象印の何は声のく多にりまあ、顔のく多にりまあ。だのなじ同とのいな見も何局結はとこういとる見をてべすがだ

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