C: 言葉が世界をつくるとは
最後から2番目の戦争が終わったあと、生き延びた人類はいっせいに仮想世界へ転移してしまった。全自動の生命維持装置に身をゆだね、現実の世界がひとりでに修復されるまで夢を見続けようとしたのだ。共同の夢の中で出会いと別れ、誕生と死が繰り返された。やがて夢の中に名前のないものが出現した。人々はそれを恐れ、排除しようとしたが、名前のないものは仮想世界からはみ出ていたため、どこにもいないと同時にどこにでも遍在して退治しようがないのだった。ようやく最後の部屋に名前のないものを追い詰めたとき、人々は同時に自らが追い詰められていたことを理解した。名前のないものは振り返り、誰も聞いたことのないことばを発した。それは外なる世界の呼び声だった。
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