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500円玉

doru

 

 まあちゃんは七歳、えっちゃんは四歳、きょうもおかあさんといっしょにお買い物です。おかあさんが押すカートの横にはまあちゃんがそばについています。えっちゃんは、カートに乗ってねずみのぬいぐるみを持ってごきげんです。
「おかあさんアイスクリームが欲しいの」まあちゃんは言いました。
「今日は寒いからだめよ。そのかわり今日はあったかくて美味しいおでんを作ってあげるね」おかあさんはそう言いました。でも、まあちゃんはおでんよりも、寒くてもいいから美味しいアイスクリームが欲しいのでした。
 お買い物が終わり、お店のおばさんの計算も終わり、レジ袋の中に品物を入れている間に、まあちゃんは、きらりとひかるものを見つけました。何だろうとかがんで拾ってみると500円玉でした。まあちゃんは、一瞬どうしようかと考えました。そしておかあさんを見ました。おかあさんは忙しそうにレジ袋に品物をいれています。まあちゃんはこれだけあればアイスクリームがたくさん買えるのだと思い、500円玉をポケットにいれました。
 帰り道まあちゃんは握りしめている500円でおかあさんに買って貰えなかったものをいっぱい買えるとわくわくしていました。アイスクリームでもいいし、まあちゃんも欲しいとおかあさんにねだったのだけども、妹のえっちゃんがのどにいれてつまらせちゃうからと買ってもらえなかったおもちゃのおまけつきのキャラメルでもいいな。あれを買ったらおかあさんにもえっちゃんにも見せずにヒミツの宝箱入れにいれて、大切にするの。それよりも、お人形のお洋服でもいいな。まあちゃんのお人形はいつも同じ服で隣の女の子の人形のようにたくさんのお洋服が欲しいとも思いました。
 だけども……、まあちゃんがおかあさんの顔を見ながら思いました。もしも、500円玉を落とした人が、まあちゃんのような子供だったらどうしよう。その子供は落としたのにも気づかずに家に帰っていたのならどうしよう。その子には病気のおかあさんがいたらどうしよう。病気のおかあさんしかいなかったらどうしよう。その子はおかあさんのために貯金箱をあけていたらどうしよう。その貯金箱に入っていたのが、その子の全財産だったらどうしよう。
 どうしよう。どうしよう。どうしようまあちゃんは頭の中がどうしようでいっぱいになってしまいました。
「どうしたの?」おかあさんは優しく言いました。
「まあちゃん、お店で拾った。これ返しにいく!」まあちゃんは握っていたお金をおかあさんに見せました。
 おかあさんはまあちゃんからぐっしょりと汗でぬれた500円玉を受け取って、お金とまあちゃんの顔を交互に見て、しばらくの間考えていましたが、まあちゃんが目に涙をためているのをみて、うなずいて、「まあちゃんは良い子だね」と頭をなぜてくれました。そしておかあさんとまあちゃんとえっちゃんはまたお店に引き返しました。
 お店から出たとき、まあちゃんの手にはもう500円玉はありませんでしたが、どこからか子供の笑い声が聞こえたような気がしました。


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