ミーン、ミーン、ミーン、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、
スイチョーン、スイチョーン、スイチョーン、
ゲロゲロゲロ、ケロケーロ、ケロケーロ
「おにいちゃん、お水が飲みたいよ・・・」女の子は男の子に言いました。 「うーん、少しだけならいいよ」男の子は持っていた水筒を女の子に渡しました。 「わーい、おにいちゃんありがとう」女の子は男の子から渡された小さな水筒をごくりと飲みました。 「おにいちゃん、これ、泥が入っているよ」女の子は口から泥をぺっと吐きました。 「ああ、ごめんよ、さっき池に落ちたときに泥が入ったのだよ」男の子は持っていた水筒をひっくりかえしました。 水筒の中からはたくさんの泥が出てきました。 「さあ、ちょっとぐらい水なんて飲まなくても死にはしないよ」男の子は女の子の手をぎゅっと握りました。 「そうだね、おにいちゃん」女の子はにこりと笑って、かごの中のかぶとむしを軽くゆさぶりました。かぶとむしは驚いてかさこそ動いています。 「おにいちゃん、足が痛いよ」女の子は、少し歩くと足が痛いと言い出しました。 「大丈夫だよ、お家に帰れば痛くなくなるさ」男の子は女の子の足をちらりと見てから、言いました。 「うん、そうだね」女の子はにこりと笑って、かごの中のかぶとむしを軽くゆさぶりました。かぶとむしはいくらゆすっても動こうとはしません。 「かぶとむしさん、死んじゃったね」女の子はかごの中のかぶとむしを見ました。 「そうだね」男の子は女の子とかぶとむしを見ました。 「こんなことなら、かぶとむしなんてとらなければよかったね」男の子は干からびたかぶとむしの死骸を見て言いました。 「そうだね、かぶとむしなんてとらなければよかったね」女の子も干からびたかぶとむしを見て言いました。 「おにいちゃん、早くかえろうよ〜」女の子は言いました。 「大丈夫だよ。もうすぐかえれるよ」男の子は女の子に言いました。 「そうやっておにいちゃん、ずっといってるよ」女の子は言いました。 「足さえあれば、いつかかえれるさ」男の子は女の子の見えない足を見て、言いました。
かぶとむしにとりにきた兄妹が池の中で死んでいたそうです。
ミーン、ミーン、ミーン、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、
スイチョーン、スイチョーン、スイチョーン、
ゲロゲロゲロ、ケロケーロ、ケロケーロ、 「おにいちゃん、お水が飲みたいよ・・・」
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