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犯人は誰だ
doru

 わたしは長い間椅子に座り、模造大理石のテーブルに置かれている犯人の慰留品を見つめていた。
 なぜあんなひどいことが起こってしまったのか。思い出すだけで、激しい怒りで足が地につくこともできずかたかた震えていた。
 いけない。わたしは探偵だ。探偵たるもの私情につぶされては満足な捜査もできない。軽く首を振り気持ちを落ちつけようとした。息も大きくはき、深呼吸をする。
 犯人の慰留品をみる。これは難しい捜査になりそうだ・・・果たしてわたしのようなものに犯人を割り出すことができるだろうか。いや、見つけださねばならない。わたしは探偵なのだから、探偵であれば必ず犯人を見つけださねば次の犠牲者が出てしまう。犠牲者はこれ以上出してはいけない。不幸になるものがあってはいけないのだ。不幸になるものを未然に防止し、犯人を捕まえなければならない。
 ここで座り考えていても何の解決にもならない。犯人の割り出しにこの灰色の脳細胞をフルに使って、容疑者たちのアリバイについて考えることにした。

 家長の頂一朗

 この時間は会社で仕事をしているはずだ。いや、待て、家族には会社と行くと云いながら、実際はどこかよその地に出かけている可能性もありうる。わたしは家長の一朗の部屋に行き、何か参考になるものがないか調べてみる。昨日一朗が着ていたの洋服を調べる。マッチ箱が一つ見つかった。箱には『ホテル ラブリン』と書かれている。うむ、これは有力な手がかりになるかもしれない。わたしはマッチ箱をポケットにしまい、一朗の部屋を後にした。

 妻の幸子

 かぎりなく黒に近い容疑者の一人だ。彼女はいつも家にいる。同じ家族のものは犯行当時のアリバイが証明することができない。従って彼女にはアリバイというものはない。
 それに家人との折り合いも悪く、近ごろでは夫一朗氏との喧嘩が耐えない日々が続いている。彼女はいつも不機嫌だ。夫一朗氏は彼女の前では小さくなっている。怒り狂う彼女には休息が大切だとわたしは考える。探偵のわたしから言うのもなにだかどこか気晴らしに遊びに行けば彼女の苛立ちが少しは解消するのではないかと思う。今度言ってみることにする。

 一朗の母、タエ

 ボケている。これは確かだ。家族のものにもさんざん迷惑をかけている。これも確かだ。だがそんなボケている彼女も昔のことをふと思いだすときがある。いつだったかわたしが彼女と二人だけのとき、戦時中のことを克明に話してくれたことがある。
 だから彼女の昔の記憶がよみがえり、突発的な犯行に及んだ可能性もありうるというわけだ。

 一朗と幸子との娘 恵子

 彼女は中学生だ。家のものに聞いて見ると学業成績は中の下、平凡な家庭に育った平凡な女の子という印象が強い。だがその平凡さこそが、あのようなひどい犯行を及んだのかもしれない。それに彼女は母親に似て暴力的である。優しさがまったくない女であることを家族の証言で聞いたことがある。そうだ思いだした。わたしはヒザをぽんっと打った。確か犯行に及んだ日、彼女は些細なことで被害者と喧嘩したのだった。実に怪しい。わたしはノートに記録することにした。

 うーむ、難しい、どいつもこいつも疑いだすと白であり、黒であるような気がする。仕方がないので、それぞれが集まる時間まで待ち、彼らの反応を見て犯人を割り出すことにしよう。

 「さて、みなさん集まりましたね」わたしはデイナーを前にして、皆に語りかけた。
 皆、名探偵頂 太郎の顔を見てあぜんとしている。
 「この事件は誠痛ましい結果になってしまいましたが、わたしがこの事件を解決してあなたたちに再び悲劇のないようにしましょう。さあわたしに罪を暴かれる前に白状しなさい。云えば心の中のしこりが消えるはずです」
 「何アホなことを言ってるんだ」
 「はっはっは、しらばっくれても駄目ですよ。ほらこうやって証拠は残っています」
 わたしは犯人の慰留品を皆の前に見せた。
 「それがどうした」
 「わからないですか、いいです。今度はこれも見つけました」
 わたしは第二の証拠品マッチを皆の前に出した。
 「げっ」一朗の叫び声。
 「あなたっ、これは何っ」一朗の妻幸子の叫び声が響く。
 「落ちつけっ。ほんのでき心だったんだ」あわてふためく一朗。
 「幸子さああん、お腹すいたよーーー」一朗の母タエの声。
 「キキキキィィィィィ」幸子が一郎の顔に爪を立てる。
 「待て、話せばわかるぃぃぃ」一郎は顔中血だらけになって叫んでいる。
 「太郎っ、よけいなもの出すからでしょっ」恵子がわたしをいきなり殴った。
 「うえーん、おねえちゃん、ぼくの大事なコーヒカップ誰かがわっちゃたんだもん。ぼくが聞いても誰も犯人あらわれないから探していただけだものぉぉ」わたしは暴力姉恵子に殴られ泣いた。

 太郎少年のお気に入りアンパンマンのコーヒカップ破壊事件はこうして迷宮入りとなった。

                      

(少年 頂 太郎の迷宮入り事件ファイルより)

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