| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

ルルンパ星の宝石

doru

 

 宇宙からの観光船から美しい瑠璃色に見える惑星ルルンパ、宇宙の楽園とうたわれるルルンパ星へようこそいらっしゃいました。これといった産業の発展していないこの星の暮らしはお客様からの収入によってまかなわれているといってよいでしょう。
 まず宇宙湾から降りて、お客様が初めに気がつくのは少し汗ばむほどの気温なのに、この星の大気にすがすがしいハッカにも似た清涼感漂う薫りが含まれていることでしょう。この薫りはこの星で育てられるバロンバロンの樹が大きくなり赤い花が受粉するために使う薫りなのです。今取ろうとしたお客様、赤い花を手にとって存分に薫りを堪能してください。なにせこの星のほとんどの樹が少しの薫りの違いがあってもバロンバロンなのですから、花を獲ったからといって刑法で罰せられることもなければ、星外に宇宙服を着たまま放り出されるといったこともありません。
 次に目を惹くのは地球では見られなくなった黄色い太陽です。太陽が照りつけて、どこまでも青い空、あそこでは白い入道雲まで出ています。これは他の星のようにドームで創る人工のものとは違い天然のものです。天然といえば、この大きく広がる海も天然のものです。地球では第四次宇宙大戦で海は放射能にまみれて赤茶けた地肌を見せるだけとなりましたが、ここルルンパ星では昔のままの姿の天然の海でご存分に遊んでもらってイルカの餌付け風景や珊瑚礁でのマーメイドショーが見られることを約束します。
 お子様をお連れの親御さん、お子様がどこか変な場所に入り込むのじゃないかとの心配は杞憂のものとなりましょう。お子様には観光客向けに訓練された原住民の子供がつきっきりになって野山を駆け巡り、三日も経つとどれが自分の子かわからないほどに野性的な子供に変貌します。―ここだけの話なのですが自分の子だと思って連れ返った子供が実は原住民の子供だったと笑えない冗談まででてくるぐらいです―。
 さて、夕焼けを見ながら、お食事を致しましょう。これはバロンバロンの花の蜜で作ったジュースです。そしてバロンバロンに寄生するナイトガロンの幼虫のから揚げです。バロンバロンはこの星の象徴的な樹木です。建築用材に使われるのはもちろん、香辛料、香水、食物、精力剤その他もろもろこの星にとっての生活必需品といわざるを得ないでしょう。
 もう一つ、この星の特産と言えば、ナイトガロンの成虫です。先ほども申しましたとおり、ナイトガロンの幼虫はから揚げ、酢味噌、焼き物、味噌汁の具など、和、洋、中どれをとってもおいしく食べられます。それに成虫の価値といったら……百年間バロンバロンの樹に幼虫として過ごし、成虫となるのはたったの数日だけなのです。ナイトガロンこそ名実ともにルルンパ星の宝と言ってもいいでしょう。ほらあちこちで赤、青、緑の光が見えますね。あれはナイトガロンが発する光です。一匹一匹が違った遺伝子配列を持ち、雄雌がお互いに求愛するときに発する光が固体ごとに違う上にバロンバロンの樹によっても色が変わってくるというもので、一匹として同じ色のものはありません。ガイドブックでうたわれているとおり他の星ではナイトガロンの成虫は一匹100万ピープルもの高値で売買されていますが、ルルンパ星では100分の1の1万ピープルという安値で観光客ならどなたでも買うことができます。ナイトガロンは甲虫科に属し、一千年前に他の星から今は滅んでしまった前銀河帝国の輸送船にまぎれ込んだ虫だと言われていますが、バロンバロンの変質遺伝子を吸収してあのように光る虫になったそうです。ナイトガロンをお買いになることをおすすめいたします。さもないと後で買ってなかったことに後悔することになるでしょう。あちらでたたずむお客様はもうすでに服一杯にナイトガロンの成虫をたからせて、宝石をちりばめた中世の王女様のドレスのように輝いています。
 とはいえ原住民の嫉妬にはお気をつけください。ナイトガロンの成虫をこれだけ身にまとえるというのはわたくしどもでも一部の富豪階級だけです。ですから観光エリア以外の貧民層が棲むスラム街には決して入り込まないことです。そこには数千匹ものナイトガロンをまとったお客さまをまぶしそうに見る貧民どもがいます。貧民街の原住民は一応に寿命が短いのです。それはなぜかは後ほどご説明いたしますが、彼らは幼虫を食べることはできてもナイトガロンの成虫を買うお金がないものですからなんとか成虫を得ようとお客様にご迷惑のかかるような……例えば、ポン引き、引ったくり、スリ、ときには殺人までやってのける不届き者までいるのです。
 みなさま夜も更けてまいりました。身体中にナイトガロンをたからせていますね。それでいいのです。そうしなければならないのです。その訳は明日この星を出発するときにお聞かせするとして、当ルルンパ星の最高級ホテルで美しいナイトガロンと一緒に良い夢を御覧下さい。
 みなさま朝です。ナイトガロンはどうなりました。ははぁ起きたら全部死んでいた。どうしてくれるのですって……いや、これでいいのです。実はこの楽園のようなルルンパ星にも唯一欠点がございます。実はこの星に最初から生えていたバロンバロンの樹には大量の放射能が含んでおりましてね。この放射能が変質遺伝子の元となりナイトガロンの光の元だったのです。そしてナイトガロンはみなさまがバロンバロンの放射能除去のために必要なのがナイトガロンの成虫だったのです。生きたナイトガロンを地球に持っていけば放射能で汚染された地域が再活性化できるのですが、環境が違うために1千万分の1しかナイトガロンが生き残る可能性がないのです。そのうえ変質遺伝子のためにこの星でしか繁殖ができないようになっております。バロンバロンの樹の放射能を取り込みナイトガロンはたった数日だけ発光してお客さまを救うために命をなくしてしまう。なんて哀しくて美しい虫なのでしょう。だからこそ彼らはルルンパ星の宝石と言えるのです。


トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ