プラグコードから電力を供給することで疑似神経細胞を活性化させる治療にあたる工学医師の君が、人間工学に批判的な科学者・伊藤めぐみと出会ったとき、通常設定より20,000ボルトほど高い電流が君の脊髄を走って、サイボーグ化された君の肉体は科学的かつ古典的男性心理に忠実な反応を示した。心臓のポンプは顔面の毛細血管に多量の血液を供給した。ポンプの活動の活性化にともない君の呼吸は不規則化し、いわゆる不整脈に類似した状態へ君を陥らせた。これらの反応に対して、冷静沈着な君は自身が伊藤に恋し「ひとめぼれ」の症状をきたしてしまったのだと知覚した。君は愕然としたが、この問題への適切な対策が何であるか精確に考察して、0.08秒で結論に達した。挑戦的な目で君を睥睨する伊藤めぐみに接近して、次のように述べた。
「あなたにとって私は敵かもしれません。ですが、私の性癖として、あなたのような方を敬愛せずにはいられないのです。私はディベートを放棄します。お帰りになって、二度と私の前へは現れないでいただきたい。それが私にもあなたにも良いことです」
「あなたのことは立派な方だと聞いておりました。不断の努力と人間工学の実践によって高度な技術を手になさった革新的な医師だと。ですが私は今日、とても失望させられました。ご助言にしたがうまでもなくあなたの顔など二度と見たくございません。あなたには情がわからないから、このようなヒトを馬鹿にした振舞いをなさったのです。人間の誇りを放棄したあなたという方を私は軽蔑いたします!」
伊藤めぐみが憤然とラボを後にして20分の後、あらゆるエネルギー供給コードを引きちぎって停止した君を発見した清掃ロボは、刷込みの判断基準の下、機械油塗れの死体を黙々と片づけにかかった。
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