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口紅を食べ続ける女性たちPAGE2

藤川 零

 

 あれから、数十年がたち地球はずいぶん変わってしまった。ほとんどの人類が当たり前のように電子機器をもち、食べ物に飢えることもない。衣服も十分にある。
しかし、今は学歴社会に変わってしまった。数十年前に人々を怖がらせていた「口紅病」は結局新薬も開発されていないまま今に至っているが、おかしなことに、ここ数十年は「口紅病」で死者はあまりでていない。だから現在では「口紅病」は人々に恐れられる病気ではなくなってしまったのかもしれない。が、人々の見えないところで口紅病と闘っている人がいることは、あまりポピュラーな話題ではないし、よく知られていない。

「うん。わかった。じゃあテキトーになんか買って帰るわ」
現在高校一年生のカイトは、持病もちの母親を持ったがために、ちゃんとした食事をとれず毎日のように帰りはスーパーのお惣菜などを買って、母親と自分のために調理して決してバランスの良い食事とは言えない食生活を送っていた・・・
だが、カイトにとっては生まれた時からこのような生活なので、自分を不幸な子だとかは思ったことがないらしい。それに母親が持病を持っていることは知っていたが、何の病気かは知らされていない。今まで気にならなかったし聞くこともなかった。
しかし、カイトの母親は周囲にいる女性のように化粧というものをしない。それはカイトにとっては気になることだった。まあ、男性にとって女性の化粧というのはあまり気にならない話題かもしれないが・・・
いつもの習慣のように今日も高校へ通う。中学の時とは違って先生がとても親身になってくれる学校だ。そろそろ進路を決めていかなくてはならない。しかしカイトは進路なんて言われるまで考えたことがなかった。家に金銭的な余裕はないので学費の高い学校に進学することは不可能なことだと思っていた。
今日はそんな不安な面持ちの中、二者面談が行われる。
「カイト。進路はどうするんだ。もうみんな大体決めているんだぞ」

「・・・」

カイトは黙ったままだ。

「大体は決めないと、次のコース選択に進めないぞ」

「(そんなのまだ一年だし、決めれるわけないじゃないか。まわりがおかしいよ)」

「まだ意志が固まっていないので、とりあえず大学進学にします」
本当にとりあえずそういえば、この場を収められるとおもったんだ。
だがそううまくはいかなかった。
「カイト。君は本当に自分の人生をとりあえずという言葉で収めようとしていないか。あるいはとりあえずな人生でいいと思っていないか??」

教師のこの一言に、カイトは怒りもあり感動もあった。
そうだ、僕はいつだってとりあえずで終わらせてきた。僕は毎日のように苦しんでいる母親を助けたい。勉強は嫌いだけど母を助けるためなら・・・!!

「先生、僕、ずっと自分に嘘ついてきました。僕はうそつきでした。今までずっと自分の人生なんでこんなもんだとあきらめてきました。けど今の先生の言葉で自分のやりたいことが見つかりました。無理だとはわかってるし無謀な挑戦なこともわかってます」

「おう、言ってみろ。どんな無謀なことでも絶対無理なことなんてないんだぞ。」

「僕は、医者になりたいです。医者にはなれなくても医療に携わる人間になりたいです。」

「本当に、決意を固めたんだな。だが、医者は難しいぞ。中学生から医者を目指す奴もいるし、それどころか生まれた時から医者になれと決められた人間だっている。それでも頑張るといえるか?」

「言えます。僕は医者になりたい。」

「私が全力でアシストしよう」

その日から彼は誰にも負けずに勉強を積んだ。周りの誰よりも。
彼が高3になった冬、XX大学医学部の受験。医学部はどこも難関といわれた。
彼は全力を尽くした。が・・・・

その年の春、合格発表。
彼はXX大学医学部不合格だった。

途方に暮れて、心が折れそうな彼に朗報が。

同じ大学の薬学部の二次試験の知らせだった。

彼は最後のチャンスだと思って、受験した。薬学部は見事合格。

彼は春から大学生。そんなある日、彼は母親の病気の名前を知ることになる。
「口紅病なの。わたし。カイトごめんね。今まで言わなくて。本当にごめんなさい」
泣きながら謝る母に、カイトは困惑しながら、頭の中で色んな疑問が湧きながら
「うん。言ってくれてありがとう。」
頑張って絞り出した言葉がそれだった。
(口紅病ってなんだよ。僕に嘘ついてるのかよ。もっと重い病気だからわざとそんな病名をいったのか?)
一応、インターネットで口紅病を検索。すると数十年も前に流行った病気で日本ではない国で発生した病。数十年前は社会現象になるほどに、たくさんの死者が出た病らしい。
特効薬は未だ開発されていない。と。

今では口紅病患者(重症)専用の病棟があるらしく、患者は隔離されているらしい。

数年前の面談で自分の脳内で考えたことを思い出した。母親を助ける。その思いで医学部受験を志したんじゃないか。
結局薬学部になってしまったけど、薬学部でも母を助けることができるんだろうか。口紅病患者を助けることはできるのか。いやできる。
薬の力で・・・!




PAGE3へ続く。

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