荒波のうち寄せる磯にハルキは立ち上がった。彼の視線の先の大岩には頑丈な鉄の環が打ち込まれており、そこから下がった鎖に生まれたままの姿でがっちりと縛りつけられているのは飛沫に濡れそぼったうら若い娘だった。
潮が満ちてくれば間違いなく溺れ死ぬだろう。迷信深い陸上人たちの残酷な刑罰の犠牲者にちがいない。そう見てとったハルキは迷わず彼女を救おうと近づいていった。
「――気をつけろ!」
突然アノマの声が叫ぶと同時になにかが激しくヘルメットにぶち当たってハルキはよろめいた。
「そこから逃げろ――早く! フェイスプレートを砕かれたら一巻の終わりだぞ!」
さらに一撃、二撃とショックが彼を襲った。なにがなんだかわからないうちにハルキはバランスを崩して海の中にまっ逆さまに転落していた。
「大丈夫か? システムを確認しろ!」
彼はいつのまにかアノマが自分を抱きかかえるようにして推進装置を全力で働かせつつ調査艇のある沖合いの深みに向かっていることに気づいた。
「ああ、なんとか無事らしい……教えてくれ。いったいなにがおこったんだ?」
そう尋ねられようやく緊張が解けたのか同僚はいきなり笑い出した。
「ええ? なにもわからなかったのか? ――たぶんきみはポセイドン神に送りこまれた海の怪物ってことになったんだ」
「え……なんだって? いったい何を言っている?」
「サーボ補強された半トンもある耐圧スーツを着こんだ人間をあんな具合によろめかすんだから間違いなくやつは英雄だな。見ろよ、この傷……ったく、なんて馬鹿力だ。おたく、あぶなくヘルメットごと首を叩き切られるところだったんだぜ!」
「やつ……? って誰?」
「名前なんか知るもんか。襲いかかってきたバーバリアン野郎さ。ま、『ペルセウス』とでも呼んでやろうや。それであの娘はさしずめ『アンドロメダ姫』ってわけだ……」
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