| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

ワシントン 12/31/2005

高本淳

「二時間前わが軍の偵察衛星がこれらのサイロの蓋が開いているのを確認しました。残念ながら現在そこは雲におおわれているためその後の経過はわかりません」
 シェルター内の執務室で合衆国大統領は額に深いしわをよせつつ報告を聞いていた。
「上海沖へのスージーの一撃はまったくの不意打ちであり、かつ強烈でした。北京は壊滅こそまぬがれたものの首都機能はほぼ完全に停止。津波は沿岸部のほとんどの都市を蹂躙し交通と通信のインフラを根こそぎにしています。はたしてかの国の指揮命令系統が生き残っているかどうかはなはだ疑問であります」
 統合参謀本部議長の言葉を国防長官がひきついだ。
「道路も電話も寸断され外部からの情報は一切届かない。頭上は黒雲におおわれ視界もレーダーもきかず攻撃に対してまったく無防備で孤立している……連中の置かれた状況を想像してみてください、大統領。あるいは彼らもわが国の将兵同様に忍耐強く、あらゆる事態に備えて訓練されているかも知れない。しかしそうでないかも知れないのです。万一被害妄想じみた狂気にとりつかれた幾人かがあれらのミサイルのうちひとつでも発射したら――罪もないわが国の市民数万人が犠牲になることは避けられない。しかしわれわれはそれを防ぐ手段を持っています。どうぞご決断ください」
「だが……それは死者をむち打つのも同じではないか。きみたちは大統領であるわたしに、不慮の災害で数億人を失った国に対し冷酷無情に攻撃を命じろと言うのかね?」
「アメリカ市民を守る決心に限界があるべきでしょうか? それに数億の一般市民の死にたかだか数十人の軍属を加えたからといって、一体それが何だというのです?」
「神よ、許したまえ……」全員が口を閉ざした重い沈黙のあと大統領はぽつりと言った。「諸君の意見はわかった。決断を下すまでしばらくひとりにして考えさせてくれ」

 それから十数分後、北大西洋上で海面すれすれに浮上して生き残った気象衛星のデータを解析していたロシア戦略核ミサイル潜水艦『カリーニン』の艦長セルゲイ・アヴァクノフは、中国内陸部に突然幾つものまばゆい閃光が輝いたことを知った。

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ