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おおそれ見よ

中条卓

「あいつの向こうを張って空に逃げたのは正解でしたよねえ」
「あいつの話はするな」
「あ、こりゃ失礼をば。それにしても間抜けな話ですよねえ、コンピュータだけならまだしも、船までバグだらけになっちまったっていうんですから」
「あいつの話はするなと言ったろう」言いつつもこみ上げてくる笑いを隠せない。

 ツェッペリン号そっくりに作らせた飛行船の特等席に陣取り、着陸地点を物色する。GPSは機能しているものの、地形がすっかり変わってしまったので、実際に見て選ぶより他はないのだった。

「やはり箱根かな」
「エヴァの例がございますからねえ」
「食料は大丈夫だろうな」
「備蓄が半年分はございますから」
「その後の見通しは?」
「海面の上昇が見込まれておりますから、このあたりでも魚介類には事欠きますまい。畜産および農産プラントは着地と同時に建設に取りかかりますので、三か月もすれば新鮮な肉と野菜を食卓に乗せられるかと」
「うまいブロッコリが食えるかな」
「それはもう、産みたてのタマゴで作りましたマヨネーズを添えましてですね」

 ふふん、と鼻で笑いながらもまんざらではない。そろそろ昼飯の時間だ。今日は有名店からわざわざ食材と機材ごと引き抜いて乗り込ませたラーメン屋の店長に作らせる予定だった。

「麺は固めにな」

 ええそれはもちろん、と言い終わらぬうちに前方左手の空から光の尾を引きつつ飛来せるミサイル、雲中につかの間の太陽を現出させ、かの飛行船を乗客もろとも焼き尽くしけり。

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