「レーダーを早く切れったら! このちんこ頭野郎! 首をねじきられたい?!」女性士官に激しく罵倒され目を白黒させながら担当官はあわててスイッチをオフにした。
「サム、これ以上絶対に距離をつめるんじゃないよ。わかったね!」
「アイアイサー、要は攻撃の意図と取られる行動を一切慎むってことですね?」
なぜこれほど機長がぴりぴりしているのか飲み込めずに唖然としている他の哨戒機クルーたちのために副操縦士はあえて尋ねた。
「そう、戦略核原潜が発射口をすべて開いたうえで緊急浮上――なにやらぴかぴかさせながらね。ただならぬ覚悟でいることはまちがいないわ。バーンズ、読み取れた?」
「はい、機長……平文の英語でこう繰り返しています。『本艦はロシア共和国北洋艦隊所属戦略核ミサイル搭載艦「カリーニン」である。現在わが共和国の防衛システムは機能していない。それゆえわれわれは祖国防衛の任務を遂行するため艦長自らの責任においてこうした行動にうったえざるを得ない。本艦の搭載する巡行ミサイルは貴国東海岸の軍施設および諸都市を標的としたうえで発射体勢にある。先制攻撃の意図はない。くりかえす。先制攻撃の意図はない。しかし以後本艦への戦闘行為はすべてわがロシア共和国に対する直接的攻撃とみなす。われわれの立場を理解し冷静な対応をのぞむ』――以上です」
「ちくしょう! ロすけども、おれたちの目と鼻の先でなんてふざけたことを!」
「頭を冷やすんだよ、坊やたち。核戦争の引き金を引きたくなかったら大人しくしていること……腸煮えくり返ってもね」
「でも、機長。やつらなんで悠長に点滅信号なんかつかっているんです? 無線機が故障でもしているんでしょうか?」
「わからない? 暗号を使わずあんな通信文をばらまいたらどうなるか。このあたりには津波に備えて沖に出た民間の船がたくさんいるのよ。まんいちことが知れわたったら一気にパニックがひろがって沿岸諸都市は攻撃をうけたも同然の有り様になるでしょう」
「なるほど、すこしはおれたちのことも考えてくれているというわけか」
機長は不敵に笑った。「ふん、何にせよ敵ながらそうとう胆のすわった艦長だわ」
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