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ワシントン 1/01/2006

高本淳

 全員が着席するのを待ちかねたように大統領は始めた。
「新年おめでとう、諸君。年明けそうそうあわただしいことだが事態は待ってはくれない。沿岸地域での津波被害の把握、『炎の壁(ファイアーウォール)』『冬毛(ウインターコート)』両作戦の発動、に加え新たにニュージャージー沖での問題が生じた。将軍、まずはさきほどわたしが質問した件について手短に報告を――」
「はい、大統領。あのオスカー級原潜はSLBM垂直発射管二十四基をすべて開いております。攻撃を察知したら躊躇わず発射するつもりでしょう。もしすべての巡航ミサイルが同時発射された場合、現在のわれわれの防衛システムでは着弾までに半数を撃ち落とすのが精一杯です。言い換えれば――十二発の550キロトン核がボストンからワシントンに至るわが政治経済の中枢にばらまかれるだろう、ということです」
「聞いたとおり、まさに危機的状況だ」大統領は椅子に沈み込んだ。
「人類全部が滅亡しかねないこんな状況で、ロシア人たちだって核攻撃を行いたくはないはずだ。ここは慎重に話し合いで解決すべきです、大統領。われわれが彼らの国を攻撃することなどあり得ないと説得してください」
「それをどうやって相手に信じこませるのかね? コリン。きみたちが整備していた外交ルートは役にたつまい。彼らの指令系統がずたずたになっているからこそこうした事態に至ったわけだ。なによりわが国は武器をちらつかせた相手と交渉はしないことを原則としている。国家の統制をはなれた以上、連中はテロリストと同類だ。きみも知るようにわれわれはその手の卑劣なおどしには決して屈しない」
「おっしゃるとおりかもしれませんが、それではほかに何か方策がおありですか?」
 大統領はデスク越しにタカ派で知られた国防長官にちらりと視線を送った。
「つまり反撃の時間を与えずにあの艦を一撃で完全に破壊することができれば万事解決するのだ――それが可能だと、きみは保証できるのだね?」
「はい、大統領。十分可能です」
「いったい何をやらかすつもりだ? ラミィ?」
「どうやらきみもあの船の艦長と同じらしい、コリン。国務長官のきみが忘れている戦略的要素がひとつあるんだよ……」

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