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極軌道 01/01/2006

高本淳

 もしも運よくドッキングベイとのハッチが閉鎖されていなかったら彼ら全員の運命は悲惨なものだったにちがいない。あるいは姿勢検出装置が今日のものほど高性能でなければ――『コロンビア』はなすすべもなく大気圏に突入していたはずだ。しかしいずれにせよアメリカ人パイロット、アンダーソンの奮闘ぶりは賞賛に値するものだった。
 吐き気をもよおす激しい機体の回転がおさまるのを待ちかねたように神林はコマンダー席から身を乗り出して叫んだ。
「いったい何がおこったんだ? 誰かなにか見えるか? ……マイケル? 早瀬?」
「こっちだ!」フライトデッキの天井窓にしがみついたまま早瀬はつぎの言葉をさがしかねているようだった。「――ここへきて見てください!」
「おまえ、怪我しているじゃないか?」早瀬の額の傷から球形の血がにじみだしているのに気づいて神林は言った。
「たいしたことはない。だいじょうぶですよ」
 ティッシュで血をぬぐう彼の隣にただよい寄り船外を一目見て神林は絶句した。レーザー発振ステーションのほんらい地表面に対して水平姿勢(LVLH)を保っているべき巨大な骨組みがゆっくりと傾きつづけていたのだ。
「S3トラスがねじまがって太陽電池板の一部が消し飛んでいる。かなり大きなメテオロイドが衝突したんだ――たぶんスサノヲの置きみやげでしょう」
 無意識のうちに神林はトラスの間に並んだ円筒をすばやく数えていた。
「与圧モジュールは無事らしい――しかしバーニアスラスターへの配管がやられているようだ。とうぶん姿勢のコントロールは望めないな。ドッキングするのさえ困難だろう」
「……いま連絡がはいった。幸い人的被害はないそうだ」ヒューストンでの共同訓練でかなり日本語を聞き取れるようになったマイケル・アンダーソン飛行士が計器をにらんだまま答えた。「しかしダスト降着計画は絶望だな」
 神林は無念そうにうなずいた。「あるいはこれは神からの警告かも知れない。われわれは人類すべてのために役立てるべきあれを兵器として使用しようとしたのだから……」

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