ギルデンスターンが寝言をつぶやき、ローゼンクランツが墓の中で寝返りを打った。誰だ、おれたちを呼ぶのは?
携帯ゲーム機が誕生日プレゼントだった最後の世代の生き残り、古老のサトシとタケシが思い出話に花を咲かせた晩のことだ。
「わしらにはもはや失うものは何もない。そして今のところ時間だけはたっぷりとある」サトシが言った。「お迎えが来るまでの間だがな」タケシが答えた。ふたりは少年時代に熱中した伝説のゲーム、「ドラゴン・ロード」を後の世代に残そうと心に決めたのだった。ふたりはお互いの記憶を補いながら、ゲームのシナリオ、キャラクター、ルール、アイテムさらにはグラフィックや音楽、せりふのひとつひとつを思い出していった。ほどけ始めた記憶の糸はたちまち巨大なつづれ織りとなり、ふたりは懐かしさに恍惚とした。
だが、つまずきの石は思いがけないところに転がっていた。
「ローカイドの宿屋に出てきた2人組の名前は何だっけ?」
「盗賊の凸凹コンビか? ひとりはたしかギル何とかいう名だったが」
ギルバート=オサリバンでもアイザック=スターンでも薔薇十字でもなかった。
「ハムレットに出てきた脇役の名前なんだよ」作家志望だったサトシが言った。
「戯曲にもなってたはずだ」演出家志望だったタケシが答えた。
仕方がない、また登場してやるか。ふたりは拍車つきのブーツを履き、錆びた刀をなめし革で磨いた。開演だ。ガブリエルの喇叭が鳴り響いている。
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