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サバイバル 01/01/2006

高本淳

 ほんと、偉そうにしきるなー、この男。なにさまのつもり? こんなやつ助けちまって、恨むよナオコ! たしかにさ――妙なこといろいろ知っているのは認めるよ。いま手にもっている懐中電灯だって背負ってる寝袋だって携帯食料だって、なんでも都が災害にそなえて用意してあったものらしいんだ……まあ、あの分厚い鉄の扉こじあけていろいろ取ってきたのはあたしとおっちゃんなんだけどね。それできゅうに行かなきゃならない場所があるって言いだして――たしかに渋谷のデパートを半分力ずくで追い出されてから行くあてもないんだよね。それにしたって……なんでよりによって川口? そもそも荒川渡れないよー。津波で橋がぜんぶ落ちちゃってるんだから。東北線も122号も――あきらめるかと思ったら、地下鉄のトンネル通って行くって? 冗談!? 岩淵のホームから飛び降りたら腰まで水だよお! でもおっちゃんに肩をかりたままなんかに憑かれたみたいに『つべこべ言わずに進むんだ!』って怒鳴ってる……もう、ありえなーい! まだ伝い歩きがやっとのアヤをはげましながら二時間ほどかけてまっくらな中をじゃぶじゃぶ――泥水かきわけて進んでようやくたどり着いた川口元郷の駅の階段あがりきったとこで根性つきてぶったおれて――ふと顔をあげると男の子がひとりエルザタワーをぼんやり眺めてる。ケガ人かかえて大変なんだ、ねえ、ちょっと手かしてよ! 声をかけるとすなおに近寄ってきた。なにやらごちゃごちゃ詰め込んだバックを大事そうに道ばたに置くとナオコがさしだしたビスケットを夢中でほうばり水筒の水もごくごく飲んで、おいおい、すこしは遠慮ってものがあるだろ! でも食べ終わってにっこり笑った顔がちょっと可愛かったので許す。名前は佑だって――ま、若い男の子がいたほうがなにかと便利かもね。いや、その、べつにタイプってわけじゃ……。それにしても他人が見たらそーとー妙な集団だよ、あたしたち――眼の見えない『K1ファイター』(それともやーさん?)、白髪頭のホームレス、所帯道具背負ったオタク青年、そしてあたしら家出三人娘――うちシャブ中一名。あは、は、は、ひでえ顔ぶれ……泣き笑いした頬になんか冷たいものが触った。雪?――あたし立ち上がって空を見上げた。見わたすかぎり灰色の雲からぽつりぽつり、みぞれまじりの冷たい雨が降りはじめてる――ふうっ、いまごろどうしてるかな? みんな……。

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