顔を真っ赤にした佑がバールを握った手にさらに力を込めると錆びた鎖が切れた。息をはずませながら友彦と顔を見合わせ、佑はゆっくりと倉庫の重い扉を押し開けた。自分が何を期待していたのかわからなかったがミホは開いた扉のむこうの寒々しいコンクリートの床の上の埃を小雪混じりの風が吹き払っていくのを少しがっかりしながら眺めていた。
「左奧の隅に木箱がひとつあるはずだが……」
盲目の男は友彦の肩をそちらのほうに向けた。全員の懐中電灯の光が重なり合って薄闇を照らしだした。
「ああ……ある」
「側に連れて行ってくれ」
友彦に支えられながらそこまで歩き、ゆっくり箱の側にひざまずくとKは佑にバールを手渡すように言った。
「こんなもののためにはるばるここまでやってきたのお? 「K1」さん?」
ミホの問いには答えず無言のまま彼は工具を受け取り板の合わせ目にしばし指をはわせていた。やがて木製の箱に打ち込まれた釘が抜ける鋭い音が倉庫の内部に響いて蓋がはずれ、そこに浮かび上がったものにKをのぞく全員が息をのんだ。あらためて尋ねるものはなかった。けっして詳しい知識を持つはずがないミホにさえもスチロールの緩衝材からつきだしたその筒状の金属光沢をおびた品物が何であり何につかうものかは一目でわかった。
「これって……まじヤバイし……」
「56式自動小銃……日本での呼び名ではAK47あるいはカラシニコフ」ようやく焦燥と懸念を脱したらしく静かな口調でKはつぶやいた。「おまえたちにこれからこいつのあつかい方を覚えてもらわねばならない……」
「おまえたちって――え? あたしも数えてたり?」
「これからも生き延びたいのなら絶対に必要だ。まずは目をつぶって分解組み立てができるようになることからだな」
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