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サバイバル 03/03/2006

高本淳

 以前は人形だったらしい。どろまみれのボロ布の塊をしっかりと抱いた小さな女の子をナオコが連れかえってきたのを知ったときのK1の顔ったらなかった。
「あのマンション下のスーパー、もうさんざん略奪されたあと――めぼしい物は何も残ってないよ。いちおう役にたちそうなものがないか調べていたら倒れた陳列棚の後ろでこの子を見つけたんだ。なんでも津波の前にママとはぐれてしまったんだって……」
「お人好しもいいかげんにしろ、ナオコ!」見えない目を見開いてK1が怒鳴った。「この国全体でいったいどれぐらい孤児がいると思っているんだ? それを出会うたびに拾ってくるつもりか? ただでさえ食料が不足してるってのに、これ以上役たたずの穀潰しをふやしてどうする?!」
 ……よく言うよ! あんただってガレキに埋まっていて死にかけてたところをナオコに助けられたんじゃない? 一方的になじるK1にむっとしてあたしがそう言いかえそうとしたとき、ふいにか細い、だけど妙によくとおる声がわってはいった。ここ数日さらに具合が悪くなってほとんど寝たきりのアヤだった。
「その子を置いてやってちょうだい――あたしの代わりに。……もう長くないみたいだから……そのぶん食べ物があまるでしょ?」
「なに言ってるんだい――長くないなんて……百年早いって! あいかわらずそそっかしいなあ。アヤは」ひざまずいて彼女の手を握り、あらためてそのやつれた様子にぎょっとしながらあたしは努めて明るく言った。
「ありがと。ミホ……でも、わかる。自分のことだもん――おねがい。その子を置いてやって……あたしこそ穀潰しの役たたずだし。ほんとならひとりぼっちで死ぬところだった……だから、その子ひとりで死なせないで――」
 そこまで言って体力がつきたらしい。またアヤは眠り込んでしまった。あたしたちは何も言えなくなってだまりこんだままおたがいの顔を見交わした。
「……勝手にしろ」そう言いすてるとK1は奴らしくもないふてくされたような様子で腰をおろしひとり壁にもたれかかった。

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