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極軌道 10/20/2004

高本淳

 いままでの陽気さとは一転した堅い顔つきの警備員たちになかば連行されるようにして彼らは気密ハッチをくぐった。
「いったいどういうつもりなんだ? このあつかいは……?」狭い指令モジュールのなかでアドラー指揮官本人と沈黙のうちに睨み合って後、主任技師の神林がまず口を開いた。
「合衆国大統領の命令によりここ当分きみたちに地上との交信を禁じることになった」
「なんだって……?」「……いったいどんな権限で?」日本人技術者たちの当惑と怒りを含んだ抗議の声は迎撃作戦指揮官の冷たい一瞥の前にやがて静まっていった。
「この決定は日本政府の了解も得ている……わたしとしても残念だが、これは他ならぬきみたち自身のまねいた事態だ」アドラーはふわふわと漂いそうになる大柄な身体を作業デスクの後ろに押しこみつつ言った。「きみらのなかに極秘情報をリークしたものがいる。われわれの作戦が失敗であるという悪意ある記事が一部メディアに流れているのだ」
「だがそれは事実じゃないか? 『アマテラス』は予想通りの効果を上げてない。世界は真実を知るべきだろう?」神林の背後から誰かの声が聞こえ、アドラーの顔が紅潮した。
「確かにわれわれのレーザーは焦点をしぼりきれずハロー内部で拡散している。スーザンを衝突軌道から逸らせられるかどうかは微妙なところだ。だが重要なのは作戦が遂行され続けているという点だ。それが大衆にまがりなりにも希望と秩序とを与えているのだ。きみたちの無思慮な発言がどんな社会的な混乱に結びつくか? そんなことはすでに承知してくれていると思っていたのだがね?」
「それはただ体裁を取り繕っているだけだ!」
「……もういい。静かにしろ!」どうやら決定は覆りそうもないと判断した神林は別に妥協の道がないか探ろうとした。
「……それではわれわれが具申した例の計画は? あなたがたも関心を示してくれたはずです。地上に連絡できずにどうやって有効な波長やパルス間隔を確かめられます?」
 それに対する指揮官の返事はしかし全員を唖然とさせるものだった。
「その件はすでにホワイトハウスに報告した。『衝突の冬』の塵をレーザーで除去可能かどうか我が国の産軍学あげて研究される。もはやあれはきみたちの手を離れたのだ……」

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