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去りし日の現実

華南

カズオはいつもと変わらない朝を迎えた。
カーテンを開ければそこには大自然が広がり、いつも朝は痛む頭も今日は調子がいい。

「・・・今日はブロッコリーを収穫しよう」

我ながら、あのころに比べれば馴染んだものだと考えた。


体調が悪いと感じたのは5年前の、30代半ばにもなり、会社でも成長株として期待をされていたある日の午後だった。
いきなり頭が割れるように痛くなったのだ。

病院へ向かったが、医者には「精神的なストレスによる体調不良ですね。現在の生活がいけないのかもしれません。十分休養を取ってください。」と人の立場も考えずに笑顔で言われたのを今でも鮮明に覚えている。
もちろん医者のいうことなんか聞かずに仕事を続け、年末の忙しい時期に得意先で倒れる前までだったが・・・。

「君、体調が悪いみたいじゃないか。医者には行ったのかね?」
「無理はしないほうがいいと思うよ?」

と同期入社でもコネで出世をした上司に言われたときには、頭が痛くイライラしていたのもあり、「平気です、放っておいてくれ。」と言ったのはまずかった。
その言葉がきっかけでどうでもいい閑職にまわされ、会社にも居づらくなり結局辞めることになってしまったから・・・。

会社を辞めれば人も離れる。
長い間付き合っていたノゾミも、心配するそぶりを見せながら離れていった。
幼いころに親もなくして、天涯孤独の身に何が出来るわけでもなく、忙しくて使うことの出来なかった貯金のみが残ったのがせめてもの救いだったのかもしれない。

「農業でもするか。」
飲み屋ではよく聞くそんな話も、まさか自分で呟くことになろうとは、全く思ってもみなかったが、心に決めれば早いものだった。

その後は、一度は住んでみたかった四国の山奥に小さな家を買い、自給自足の生活をするための情報集めに必死になり、農業の知識や冬の越し方を勉強した。
医者の言った「ストレスのない生活」と言うものがどんなものかわからなかったので、極端に行ってみようと思った。

テレビのない生活。
電気のない生活。
人のいない生活。
コンビニのない生活。

全てが初めての体験で、全てに不安と期待を抱いていたのも確かだったが、準備不足で逃げ帰るような事だけは避けたいと本気で考えた。


そんなあの日から4年以上経った。

今日も日の出と共に起き、夜は自分で作ったどぶろくを片手に星でも見ながら寝るとしよう。
4度の冬を体験し、四国と言う幸運な選択をしたために、今年の冬も無事過ごせるだろう。食料も一人分なら十分あるし、誰かが訪ねてくることもないだろう。

毎年買い換えることのないカレンダーは、今年ももうすぐクリスマスだと言っている。
町は賑やかなのだろう。町は町で、俺は俺で幸せを願うことにすればよい。

今日も生きるために必死になろう。と朝日を見ると思えてくるから人間変わるものだ。

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