「できちゃったみたい。予定日は12月24日ですって」
あまりにもあっさり言われて、おれは言葉を失った。やはり、入手が困難になってきた避妊具を繰り返し再利用したのがいけなかったか。念入りに点検したつもりだったんだが。
「喜んでくれないの?」
そりゃまあ、嬉しくないといえばうそになるが、それにしたって何だってこんな時期に…12月24日だって? 思わず叫んでしまった。例のスサノオが大接近して、ひょっとしたら落ちてくるかも知れないという厄日じゃないか。よりによってそんな日にこの世に落ちてこなくたってよさそうなもんだ。
「名前、もう考えちゃった」
まさかスサノオなんてえんじゃないだろうな。
「男の子だったらタケルにするの」
女の子だったら? きっと男の子よ、私のカンは当たるんだからって、そんな。
それにしてもどうしたものだろう?
安全にお産できる場所なんてあるんだろうか。お産だけなら宇宙空間とか海底とか、影響の少なさそうな場所があるにはあるけど、
「妊婦がそんなところへ出かけられるわけないでしょ」
いや妊婦じゃなくても無理なんだよ。あとは山奥か、いっそ海のまん中か。
「山はいやよ。山菜もキノコも嫌いだもの」
なんとか考えてちょうだいよ頼りにしてるから、と言われたとたんにおれの頭脳はフル回転しだした。おれも発明家のはしくれ、こうなりゃ何が起きても大丈夫な海上産室を創ってやろうじゃないか。名前だってもう考えたぞ、箱船ならぬ「吾子船(あこぶね)」だ。形はもちろん球形で、材料はポリカーボネート、2重構造にして内側の球はどんなに揺れても常にバランスを保つようにするんだ。外側には太陽電池のパネルを張って、イオン交換樹脂と蒸留器と自家発電アーンド推進用の自転車と釣り竿と網とプランクトンを濾過するフィルタを付けよう。こりゃ一世一代の大発明になるぞ…
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