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モンピリア 01/02/2003

高本淳

 ブルッキングス研究所からの訪問者は執務机の上にぶあつい書類の束を置いた。
「こちらが迎撃オペレーション・アマテラスが成功した場合の予測です……」
 覗き見たページの重さにうんざりしたように州知事はレポートを閉じた。
「簡単に要約してもらえるとありがたいんだがね」
「簡単に言えば現政府の放漫経営のツケがぜんぶあなたにまわってくるということです――巨額の財政支出による過剰流動性とハイパーインフレ。食料品をはじめとする個人消費材の慢性的不足。金融市場の冷え込みにともなう資産のだぶつき……仮に世界は救われたとしても次期大統領の舵取りが多難を極めるのは間違いないですね」
「ふむ……」椅子の背にもたれかかり腹の前で組んだ両手の親指をすりあわせながら知事はたずねた。
「博士……察するにきみもまた出馬は断念したほうがいいとわたしに忠告するつもりなんだろうな?」
「できればね――前任者のしりぬぐいをするばかりの四年間をお望みですか?」
「誰がすすんで望むものか……しかし、もしいま再選を許せば世界を救った指導者として彼は歴史に永遠に名を残すかもしれないじゃないか。あんな男にその栄誉を与えることを思えば、わたしはどんな苦労も厭いはしないさ!」
 激したように立ち上がり窓辺に歩み寄った彼に背後から研究員は感情を押さえた静かな口調で話しかけた。
「その覚悟がおありならひとつ助言をしましょう。――なすべきことはひとつ。かつてトルーマンが先の大戦後の恐慌を回避するのに使ったのと同じ手を用いるのです」
「ん?」薄暗い部屋の中をふりむき知事はたずねた。「いったいどんな手だね?」
「危機を決して過ぎ去った過去のものにしないこと。新たなインパクトの危険をねつ造するのもいいでしょう。つまり冷戦同様に迎撃計画を延々と継続し続けるのです」
「だが……もし今回の迎撃が失敗したら?」知事の問いに相手は微笑みながら答えた。
「その場合あなたは労せずして人々に記憶されますよ――最後の大統領としてね」

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