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K

高本淳

 どう喝するような排気音をたてながらがらんとした駐車スペースに停まった改造車に一瞬怪訝な顔をしたリエだったが中から現れたKの姿を見てほっと安堵の笑顔を見せた。彼は二階の窓に向かって微かにうなずくと油断なく周囲に目を配りつつ、かさばる荷物を小脇に抱えアパートの外階段を上った。
「まだぐずくずしていたのか?」
 街はすでにゴーストタウンも同然だった。女ひとり長居するのは危険きわまりない。玄関を入るなりそう叱ったもののさすがに今日はいつもの冷徹な口調に微かに疲弊の色があった。たずさえていた包みを畳みの上にどさりと置くと狭い部屋に焼けた機械油と微かな硝煙の臭いがただよう。そしてすえた血の臭いもまた――男の上着の袖を濡らしているのがただの水でないことを見て取ったリエははっと息を飲みながらもKが窮屈そうにそれを脱ぐのに震える手を貸した。
「血止めしてしまえば問題ない。かすり傷だ――おれがやっているのは危険な仕事だということはまえに言ってあったはずだな?」うなずく相手にKは言い含めた。「いっしょに行けるだろうと思ったが、その前にかたづけておかなければならない用事ができた。ひとりで先に長野へ向かってくれ――心配はいらない。明日にはあちらで合流できるだろう」
 それからKは包帯をまかれているのと反対の腕をのばして女の頬にふれた。
「今夜のうちにすべてかたがつく」
「あんた――これからまた出かけるの?」
 リエの髪を無意識のうちになでつけながら彼は自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
「裏切った奴がいるんだ。証人の口を封じるついでにおれまでも消そうとした――ほうっておくわけにはいかない……」

 Kの車の爆音が遠ざかっていってもしばらくリエは放心したように座り込んでいた。やがていかにも気がそまぬ様子で立ち上がると彼女は携帯電話を取り上げ、一瞬ためらった後で一連の番号を押した。 

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